東日本大震災は、その甚大な被害から長期間にわたる復旧・復興事業を生んだ。事業量の急激な増加は結果として建設市場の需給バランスを大きく崩した。震災前に供給過剰だった市場は供給不足の状態へと転換し、入札不調という形で建設業の担い手不足という問題を一気に顕在化させた。震災が引き起こした建設市場と産業構造の変化によって、ダンピング防止に腐心してきたそれ以前の公共調達制度は、この10年でどのように再構築されたのか―。
東日本大震災の被災地では、迅速な復旧・復興が求められる一方、急激な事業量の増加は資材価格・労務費の上昇を招き、それに伴って入札不調も増加した。11年度(11年4月〜12年1月)のデータを見ると、宮城県発注の土木工事の不調発生率は10年度の7%から29%まで急激に上昇していた。
国土交通省は、復旧・復興が本格化し始めた12年2月、初めての施工確保対策を発表。発注事務の効率化、復興のための人材の確保、予定価格の積算の適正化などを柱とするこの対策は、東日本大震災の被災地だけでなく、全国の入札不調対策にも適用された。
公共工事設計労務単価は、12年2月に被災3県の単価のみを前倒しで改訂。翌13年3月の改訂時には、入札不調の発生状況を踏まえて、被災3県で単価に加え、法定福利費の本人負担分も上乗せし、全国全職種の平均単価を前年度比で15・1%上昇させた。
10年以上にわたり下落していた労務単価は、これを機に上昇局面に転換。12年度に1万3072円だった全国全職種の平均単価は、今年3月の改訂までに53・5%上昇(2万0409円)している。
ただ、被災地の労働不足に伴う価格上昇は、労務単価だけでは追い付かず、間接工事費と歩掛を補正する「復興係数」と「復興歩掛」も導入された。復興係数は、被災地で資材・ダンプトラックが不足することに伴う作業効率の低下に対し、共通仮設費と現場管理費を補正して予定価格を割り増す措置。復興歩掛では歩掛の日当たり標準作業量を低下させる。
復興係数と復興歩掛は、16年の熊本地震で被災した熊本県、18年の西日本豪雨で被災した広島県にも適用。大規模災害の発生時に積算額と支出の乖離(かいり)を防ぐ手段として活用されている。
東日本大震災の被災地では、技術者の専任緩和の措置も講じられた。建設業法で専任が求められる主任技術者は、13年2月に相互の間隔が5`以内であれば原則2件の兼務が被災地で認められ、続く14年2月には全国に適用を拡大。20年10月に施行された改正建設業法では、監理技術者も2工事を兼務できるようになった。
迅速な工事着手が求められた東日本大震災の復旧事業では、国交省が発生後の11年4月に一般競争入札よりも手続きを短縮できる随意契約・指名競争入札の活用を認めると被災地に通知。この措置は17年7月に『災害復旧における入札契約方式の適用ガイドライン』の中で整理され、その後の大規模災害の発生時に運用された。19年の品確法改正では、緊急性に応じて随意契約・指名競争入札を適切に選択することが、発注者の責務に追加されている。
提供:建通新聞社