第13回建設トップランナーフォーラム(8)
第3部・未来づくりとICT―人材育成とICT、AIの活用
■社員化進め「愛情」で育成
建設産業の労働力不足を補完するには、生産性向上が欠かせない。人材の確保とともに育成・教育が急務であり、ICTの活用もものをいう。フクザワコーポレーション(長野県飯山市)の福澤直樹社長は自社で成果を上げている取り組みを話した。
福澤氏によると、人材の確保・育成を進めるうえでの根本的問題の一つは、建設業が知識産業とみなされていないこと。「大学入学時点で建設系学科を目指す学生が少ない。さらに就職となると、大半はコンサルや行政機関に行ってしまう」
これを解決するには週休2日や給与水準の向上、ICT活用などの施策と合わせ「知識労働をやっている業界だということを一般に周知する必要がある」と説いた。
もう一つ、重層下請構造の問題にも言及。自社で人を採用し教育することを前提にした場合「元請けと下請けの利害が相反する関係は、時間とお金を奪い合うことになってうまくいかない」と指摘。そのため社員による直営施工が理想だとし、「利益の『互恵関係』のなかでこそ施工管理・施工の双方の人材が育つ」と話した。
実際の社員教育において重視するのが「やさしさと愛情」。同社では、入社初期は女性社員が教育を担当し、その後、男性の専門職に引き継ぐ。一般の子育てにおける母親と父親の役割分担をモデルにした。「初めのうちは女性職員が優しく育てると辞めにくい」といい、早期離職の防止対策として効果的と言う。
そのうえで、施工管理分野の教育は業務の手順や方法をテキスト化し座学で行う。一方、技能は簡単に覚えられないため、上級の社員がマンツーマンで指導。工種ごとに独自の社内検定を行い、個々の習熟度を確認しながら最後まで面倒をみるのが特色だ。
技術者不足の時代、生産性を上げるには労働時間を減らし利益を上げる取り組みも必須。ICTが貢献できる分野は大きいといい「とくに大断面ののり面成形、路盤工や表層工といった面的な工種ではICT土工の効果が大きい」と述べた。
しかし、それ以上に有効なのが直線と曲線が入り混じる非線形の造成工事と強調。例として中山間地のほ場整備を挙げ、「長野県では非線形の水田を造る場合が多く、丁張りを出すとなると多大なコストがかかる。だが、ドローンやレーザースキャナーで測量し、数十万点のデータを処理して土量を算出、TINデータで情報化施工を行えばかなりの削減効果が生まれる」と提案した。
こうしたICTの活用と並行し、社員一人一人の歩掛かりを上げることも必要と指摘。特に「昼は施工管理、夜は書類作成という現場技術者の働き方は変える必要がある」と述べた。
同社が取り組んできたのは、業務の並列分散処理。施工管理者が現場管理をしている昼間、事務系社員が品質・出来形・写真などのデータを処理する。「社員が業務を分担することで一人一人の負担を軽減、高品質工事も可能」だという。(地方建設専門紙の会)
提供:地方建設専門紙の会