■第1回 「建設生産」持続への基盤に
技能者の就業履歴と保有資格を蓄積する「建設キャリアアップシステム」への登録がいよいよ始まった。建設産業には、技能者の技能に評価軸がないため、積み重ねた経験が適正に評価されず、技能者の賃金は50代に入ると頭打ちになるという実態がある。カードリーダーを通じてシステムに蓄積される日々の経験、技能の研さんを証明する保有資格を評価の軸に据えることで、技能者は自身の技能を磨き、企業は人材育成と公正な処遇の実現に力を入れる―。技能者と企業にこの行動原理を与えるのがシステム構築の狙いだ。
技能者・企業のシステム登録は、2016年度、17年度に行った特別講習の受講者を対象に4月から郵送受け付けを始めており、来週からは一般向けの郵送受け付けも始まる。5月下旬にはインターネット申請の受け付けも開始する予定だ。
技能者が技能の研さんに見合った待遇を受けることができ、優れた技能を持つ技能者を雇用する企業には技術力が付く。国土交通省が技能者330万人の登録の先に描くのは、そうした新しい市場の姿だ。
ただ、技能者の経験と保有資格を蓄積するだけでこの将来像は実現しない。国交省はシステム登録に歩を合わせ、技能者・企業双方に対する評価制度の検討も始めた。この制度では、システムに蓄積される技能者の経験(就業日数)と保有資格から、技能者の技能レベルを4段階で評価。さらに、技能者の評価を指標の一つとして、専門工事業に対する企業評価制度も構築する。
システムは今秋から稼働し、技能者の就業履歴の蓄積を始める。19年度からは、技能者の能力評価制度と専門工事業の企業評価制度の運用が開始される見通しだ。
ただ、こうしたシステム構築の意義・目的が建設産業全体に浸透しているとは言い難い。現場管理の効率化などの効果が得られる大手の元請け企業と、システム導入の効果が見えにくい中小の元請け企業、専門工事企業とでは、その受け止め方が大きく異なっている。システム登録が煩雑というイメージが先行し、自らシステム導入の効果や影響を知ろうという企業が少ないのも課題の一つだ。
技能者の中にも、この産業特有の流動的な労働のスタイルを阻害されるのではないかという懸念がある。「時間単位で仕事を融通する技能者は、就業履歴の蓄積も難しいのではないか」という声もある。
ただ、ここで忘れてはならないのは、建設キャリアアップシステムは建設業が自らの手で構築する「建設生産システムを持続させるためのプラットフォーム」であるということ。国交省はシステム構築に主導的な役割を果たしているが、開発費に国費は充当されておらず、費用の大半は建設業団体の出えん金で賄われている。技能者、企業にとって登録は任意で、システムに登録し、利用料金を支払う判断は各企業・技能者に委ねられている。
登録が始まった今、求められるのは、元請け、専門工事業、技能者がおのおのの立場でシステムを自ら活用し、それによって生まれる効果を三者ともに享受できるよう、知恵を出して行動することだ。
提供:建通新聞社