トップページお知らせ >中央ニュース

お知らせ

中央ニュース

2018/04/17

人材確保・育成の勝ち残り戦略[下]

人材確保・育成の勝ち残り戦略[下]
長岡塗装店 古志野純子常務取締役

「社員の満足と経営改善を模索」「人材は会社の大切な財産」
 
 2006年度から8年間、長岡塗装店(島根県)は離職者ゼロを記録した。若者も入社し、今では30代の中堅を中心に、世代間のバランスの取れた社員構成を実現、経営の安定につながっている。「人材確保・育成の勝ち残り戦略」をテーマに建設業振興基金が2月に開いた建設業経営者研修で講演した同社の古志野純子常務取締役は、1990年代から手探りで進めてきた人材育成や、子育て・介護支援などを通じた社員定着の取り組みを話した。古志野純子氏_1

 「若い職人が育たない会社はだめになる」―。ベテラン社員の20年前の一言がきっかけだった。
 当時、5人入社し、7人辞める年もあった。しかし、それが当たり前だと思っていた。入社するとすぐ現場に出し、10人のうち1〜2人が資格者に育てばなんとかなる。家業である塗装業を、子供の頃からそんな風に見ていた。入札制度改革など環境変化の兆しはあったが、社員の入退職の繰り返しが続いていた。
 そんな状態にベテランが苦言を呈したのだ。自分にも「かっこいい職人が育っていく姿を見たい思い」はあった。そこで、社員の満足と経営の改善を同時に実現できないか考えた。今の働き方でだれも満足してないのなら、一つ一つ変えようと思った。しかし、何から手を付けていいか分からなかった。モデルはなかった。ただ、目の前にいる社員を見詰めることはできた。「社員に問題が起こっているのなら、その解決はできる」と気付いた。
 まず1998年、65歳までの高齢者継続雇用制度を導入した。若手の定着には、教育するベテランが必要だと考えたからだ。当時、就業規則を変えて、そんな制度を整えている企業は周りになかった。(この制度は2009年に70歳まで延長した)。
 さらに技術者・技能者に資格取得を奨励し、費用負担など補助制度を02年に導入した。その結果、資格取得者は激増した。02年に6人だった建築塗装の1級塗装技能士は6人から現在15人に、鋼橋塗装の1級塗装技能士は4人から12人に増えた。1級建築施工管理技士も2人から5人、1級土木施工管理技士も2人から4人になった。防水施工技能士なども育った。登録建設塗装基幹技能者は7人いる。資格取得者の増加は、工事成績の向上や優良工事表彰、技能大会での受賞などにつながっている。
 社員の子育て支援を始めたのは、02年、中途入社したばかりの男性社員の子どもの誕生がきっかけだった。奥さんに運転免許がないため、子どもが病気になると遅刻や早退をするようになった。本人にはまだ有給休暇が発生していなかった。そこで、小学校に入学するまでの子ども1人につき年5日間、年次有給休暇とは別の有給休暇として、30分単位で取得可能な子どもの看護休暇を導入した。同時に、10万円の出産祝い金や、保育料の3分の1の補助制度なども整備した。この年、介護のための始業・終業時間の繰り上げ・繰り下げ制度も取り入れた。
 05年、女性社員の初めての出産・育児を機に、子育て中・妊娠中の社員のために、空気清浄器などを備えた休憩室を社内につくった。また、子どもの看護休暇制度を高校卒業まで延長し、育児短時間勤務制度も導入した。その後、就学中の子ども1人につき月1万円の子ども手当も始めた。
 以前は子育てしている社員はゼロだった。現在、子ども手当の対象になっている社員の子どもは25人いる。しかし、制度を導入してきた目的は、単に子育てを支援したかったからではない。社員に会社で働き続けてほしかったからだ。
 また、子育てする社員だけが休めて、休んだ社員をフォローする社員が休めないのは不公平になる。だから、すべての社員に、休暇の計画的な取得を働き掛けている。また、事務職員の仕事については「見える化・共有化」し、誰でもフォローできるようにした。
 これまで行ってきた取り組みは、女性を含む若年技術者・技能者の確保・定着や、営業職など新たな戦力となるUターン・Iターン社員の採用につながった。30代で職長をしている元気な若者たちを見ていると、「間に合ってよかった。彼らは会社にとって大切な財産」だと実感する。
 しかし、昔と変わっていない部分もある。依然として3Kで、男社会の職場だ。土日祝日にも仕事がある。残された問題を、これから集中的に解決していきたいと思っている。

 会社概要 設立1965年4月、資本金/2550万円 、社員数/31人、事業内容/塗装・防水・建築・アスベスト除去他、受賞/第2回ワーク・ライフ・バランス大賞優秀賞(08年)、第1回しまねいきいき雇用賞(15年)など多数

提供:建通新聞社