【連載】ツタワルドボク(6) 海外で活躍した若手技師
ツタワルドボク副会長 松永昭吾
皆様は、ご家族、友人に土木の話をしているだろうか。土木の話をしたくても、一般の方が面白いと思うネタは限られるだろう。連載第6回は、土木技術者が身近な人に伝えたくなる「土木技術者の話」をしたい。
トーマス・グラバーの名を知っているだろうか。長崎のグラバー園のグラバーだ。ところで、彼の出身はどこか知っているだろうか。イギリス・グレードブリテン島北部を占めるスコットランドである。今回は、スコットランド紙幣に描かれた日本人アラサー技術者の話をしたい。
イギリスは、昨年6月に実施された国民投票によりEUからの離脱を決定したが、いまのところは加盟国だ。EU通貨といえばユーロだが、イギリスは導入せず、独自通貨であるポンド(くだけた言い方だとクイッド)を使い続けている。中央銀行であるイングランド銀行が発行する紙幣の他に、スコットランド、北アイルランドの複数の銀行が紙幣を発行しているが、スコットランド銀行が2007年に発行した20ポンド紙幣には、スコットランドのシンボル、フォース鉄道橋(橋長2528b、カンチレバートラス橋)とともにイギリス人技師二人と日本人青年技師、渡邊嘉一(わたなべかいち、1858―1932)が描かれている。
彼は、日本の鉄道局を一年で退職し、スコットランドの名門グラスゴー大学に入学、現地にて就職する。フォース鉄道橋建設の工事監督に抜擢され、橋は1890年に完成した。遡ること12年前に75名の死亡者がでたテイ橋事故の原因の一つとして工事のずさんさが指摘されていたころだっただけに、5万4千トンの鋼材、8百万個のリベットを使う大工事での青年技師の活躍は、のちに紙幣に刻まれる栄誉を手に入れるにふさわしいものだったといえよう。
帰国した嘉一は、東京石川島造船所(現IHI)社長を務めるなど土木技術者、実業家として日本の土木界の発展に貢献した。また、スコットランドの繁栄を支えたフォース橋は、完成から125年たった一昨年(2015年)に世界遺産登録された。