2017/12/12
【連載】ツタワルドボク(1) モノの意義を伝えてみよう
【連載】ツタワルドボク(1) モノの意義を伝えてみよう
ツタワルドボク会長 片山英資
毎日蛇口から安全な水は流れ、電気もガスも使用できる。家の前も舗装され、車移動も快適だ。川に橋が架かり、簡単に対岸へ移動できる。しかし、そのモノはあまりにもあたりまえに存在するが故、誰も気に留めない。感謝されることもない。
戦後の高度成長期に高速道路は一気に建設された。1987年には第四次全国総合開発計画が閣議決定され、全国各地に高速道路網が整備されるはずだった。しかし、物事には優先順位がある。人口や産業動向を考慮し、効果的な大都市間から整備された。すると大都市への人口と産業の集中を更に助長した。その結果、大半の人の暮らしが便利になった。時が経ち、先行的に利益を享受した多数の人は「もう道路はいらない」と語る。順番を待っていた地域の人がいたことなど知らないから、言葉に迷いもない。
土木が造るモノは暮らしを劇的に変化させる力を持つ。しかし、建設にはかなりの期間を要すため、価値観や正しい判断の基軸が変化してしまうことがある。このことから、私を含めて土木技術者は、土木の歴史を学び、語る必要があると考える。土木は過去から今、そして未来の人の暮らしを継続的に支えていることを語れるのは、我々土木技術者の他にいない。
一方、事実としてモノは一定程度ゆき届き、維持管理の時代がきた。少子高齢化により土木関連予算の確保が厳しい中、良質なインフラを維持することは容易ではない。既存のモノづくりの手法から脱却し、抜本的な変革が期待される。市民と共に守る仕組み、新たな財源の捻出方法など机上のアイデアは生まれるが、実行に際しては市民の賛同が必要となる。しかし、価値観、生活スタイルは加速度的に多様化し、市民は興味もない。まずは土木を知ってもらおう。ダムカードやマンホールカードなどの活用、専門性の高い土木技術者が語るラジオ番組など挑戦事例は増え始めている。実直な土木技術者にも、伝えるための遊び心が問われ始めた。
土木技術者が自ら伝えることで、想いは伝わり、土木は新たな価値になる。その知識を身近な家族に伝えてみることからはじめよう。以上を踏まえ、第二回はマニアな楽しみ方、第三回はモノに関する歴史について一般社団法人ツタワルドボクの委員が紹介する。