建設技能者・技術者の教育訓練施設である「富士教育訓練センター」が静岡県富士宮市に開校して20周年を迎えた。建設業の担い手の確保・育成が懸案となる中、同センターが果たす役割の重要性はますます高まっている。施設を運営する全国建設産業教育訓練協会の才賀清二郎会長に、人材育成の今後の展開などについて考えを聞いた。
――富士教育訓練センターが開校20周年の節目を迎えた。
センターの教育訓練の実績を振り返ると、開校当初の1997年度は約2万人日だった。2015年度に5万人日を超え、16年度も5万2746人日を記録した。12年度以降、訓練の実績は5年連続で増加している。無から始まって20年が経ち、ようやくつぼみが付いた。花が咲くのはこれからだ。
当協会の故山崎善弘初代会長をはじめ、開校を実現した専門工事業団体の関係者の先見の明に敬服する。当センターが役割をますます果たせるよう尽力したい。20周年を機に決意を新たにしている。
――建設業の人手不足が深刻化している。他産業でも人手不足が進み、人材獲得競争の時代に入っている。こうした状況の中、国土交通省は建設産業を「人材投資成長産業」と位置付け、現場の就労環境や処遇の改善などに積極的に取り組んでいる。そういった流れの中でセンターの施設の改築も始まった。
センターとして活用することになった建設省(現国土交通省)の旧建設大学校を視察した当初、雑草の生い茂った構内を目の当たりにし、「この施設でやっていけるのか。大変なことだ」と思った。しかし、講師や研修生らが施設を大切に補修し、これまでよく持ちこたえてくれた。だが、東南海地震という巨大地震が発生する恐れもあり、建物の耐震性など問題があった。太田昭宏前国土交通相が13年7月に視察に訪れ、建て替え事業が動き出した。
建設産業を人材投資成長産業とする国交省にとって「教育訓練の充実」は重点施策の一つ。具体策として、センターの建て替えによるCOC(センター・オブ・センター)の拠点強化が挙がっている。当協会の担い手育成に対する責任はますます重くなる。
――センターで進む新しい施設の建設は、若い研修生にとっても、建設業の仕事を目の当たりにするいい機会だ。
研修生も参加して建物を造れないかと思っている。研修生が一緒に鉄筋を組み立て、コンクリートを打つ。それが難しければ、躯体まで造ってもらい、天井の仕上げやクロス張りは実習で行うという手段もある。現場所長と話し合い、知恵を絞っていきたい。
――建設業の人材育成は今後の企業経営の問題でもある。
技能者や技術者だけでなく、経営者を対象に研修を拡充してもいい。昔と今では経営者のスタイルが違う。昔の経営者は、現場で汗を流し、仕事を覚え、会社を立ち上げた。仲間と一緒に飯を食べ、下の者の気持ちも分かった。しかし、今は自社の宿舎もない。まず経営者が変わっていかないと、いい人材が育たない。
――今後の事業の展開について抱負を聞きたい。
開校10周年の時、山崎前会長は「もう一度原点に立ち返り、『ものづくりは人づくりから』の信念を忘れず、建設産業の発展に貢献したい」と述べた。私も同じ思いだ。仲間が知恵を絞り開校を実現した当時の思いをわれわれは引き継ぎ、次の世代に渡していかなければならない。今ここで「人づくり」に真剣に取り組まなければ新しい時代に生き残っていけない。
人材育成の重要性、教育訓練の必要性はいつの時代も変わらない。生産性の向上、経営の安定、そして国土の安全・安心と生活の安定―。これらすべてを担うのは人材であり、人材以外にないことを肝に銘じたい。
【富士教育訓練センター】職業訓練法人・全国建設産業教育訓練協会が、富士山の麓の朝霧高原で97年3月に開校した教育訓練施設。旧建設大学校の敷地約5万1000平方bと、29棟延べ約1万平方bの建物を転用した。新入社員を対象とした基礎技術・技能取得の教育から、熟練者を対象とした専門教育まで実施している。建設関係の22の技能講習を登録。各種教育訓練コースにも必要な資格取得を盛り込んでいる。17年3月までの教育訓練修了者は国内17万4917人、外国人2581人の計17万7498人。きょう5月29日、東京都内で開校20周年記念式典を開く。きょう5月29日、東京都内で開校20周年記念式典を開く。
提供:建通新聞社