国土交通省は、公共工事設計労務単価を今回も前倒しで改訂し、3月1日以降に適用する新単価は全国全職種平均で前回改訂時から3.4%上昇した。労務単価の公表が始まった1997年度以降で初めて単価が上昇した2012年度(0.9%増)から数えると、6年連続で上昇したことになる。同じ12年度の単価と比較すると、全国全職種平均の単価は実に4割上昇したことになる。
労務単価は、公共工事に従事する技能労働者の賃金を把握し、実勢価格を公共工事の積算に反映するためのもの。実勢価格を反映するだけでなく、政策的な上乗せ措置も講じている。13年3月の改訂からは、社会保険料の原資となる法定福利費相当額の本人負担分が加算されている。
全国全職種平均の単価は12年度から39.3%上昇し、積算上の単価は上昇したものの、上昇分が技能労働者の賃金に直接的に反映されるわけではない。技能労働者の賃金は、元請け・下請け企業が単価引き上げに伴う請負価格の上昇分を技能労働者に転嫁して初めて実現する。
ただ、12年度との比較で4割上昇した労務単価も、年度単位で見ると、13年3月の15.1%増、14年2月の7.1%増、15年2月の4.2%増、16年2月の4.9%増、そして今回の3.4%増と上昇幅は減少傾向にある。中長期的に考えて、労務単価はどう推移するのだろうか。
総務省がまとめた2016年の労働力調査で、建設業で働く技能労働者数は前年比5万人減の326万人になった。技能労働者数は建設投資が回復基調に入った11年から4年連続で増加していたが、15・16年と2年連続で減少した。29歳以下の若年層が前年の数を上回るなど、明るい兆しはあったものの、技能労働者数が全体として再び減少傾向に入ったことが鮮明になった。
国土交通省は、10年後の技能労働者数は44万人減少するという推計を昨年6月にまとめている。建設投資の推計を踏まえると、10年後の技能労働者は実に47〜93万人不足することになる。
現在の建設投資の規模が維持されたと仮定し、このペースで技能労働者の減少が続けば、建設企業が人手を確保することはこれまで以上に困難になるはずだ。労働需給が逼迫(ひっぱく)すれば賃金も上昇し、実勢価格を反映させる労務単価は長期的には上昇するとの想定は成り立つ。
ただ一方で、納税者に労務単価のさらなる上昇が公共工事のコスト高を招くと捉えられる恐れもある。こうした懸念を払拭(ふっしょく)するためにも、建設業が生産性向上に取り組む姿を納税者に分かりやすく伝えることが求められるのではないか。
ICT化や機械化を大胆に取り入れるだけでなく、ベテラン・中堅と若年層が仕事を補い合い、全体として現場の生産性を高める工夫も必要だろう。いずれにせよ、建設産業には、現場の生産性向上という重い命題が突きつけられている。この課題をクリアし、一人一人の生産性を高めることが、この産業に従事する技能労働者の処遇を改善し、ひいては入職者が増加するという好循環を生むことにもなるはずだ。
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建通新聞社