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2016/02/15

思いやりの心(日刊岩手建設工業新聞・時評)

 2月に入り、「下請適正取引推進」に関する講習会の講師をする機会が多くなった。

 もっとも、この講習会は、ある業種の組合が中小企業団体中央会と合同で、県内各地で毎年実施しているもので、適正取引について専門知識を持っているわけではなく、専門家は別にいて、岩手の建設業の現状などを話し、前座を務めているようなものだが、すでに10年近くになる。「さて、今年は何を話そうか」。

 震災前は年々減り続ける公共事業費に比例するように、元下関係も疲弊し続けたが、震災後急激な需要過多となり、その関係は変化しているように思っている。

 講演会が近づくと、国土交通省が公表している「建設業法令遵守ガイドライン〜元請負人と下請負人の関係に係る留意点〜」と、中小企業庁の「下請適正取引推進のためのガイドライン」を必ず読み直す。

 「建設業法…」は、第4版を数え、年々進化しているようだが、違反行為は、@見積条件の提示A書面による契約締結B指値発注C不当な使用資材等の購入強制D赤伝処理E支払保留−など、あまり変わっていないように思う。

 また巻頭言では、−建設産業は、激しい競争の時代に突入し、過剰供給構造にある建設業にとって、適正な競争を通じて、技術と経営に優れた企業が生き残り伸びていくことが求められています。しかしながら、建設業においては、従来から、適切な施工能力を有しない、いわゆるペーパーカンパニーなどの不良・不適格業者の存在を始め、一括下請負、技術者の不専任、不適正な元請下請関係等法令違反が問題になっています。このような状況下で、建設業に対する国民の信頼の回復、建設業の魅力向上のため、建設業者が法令遵守を徹底することが求められています−と、全国的には「過剰供給構造」が、10年来変わっていない。「岩手では、一部ではあるが過剰需要構造なのだが」。

 2月8日、岩手県の16年度当初予算案が発表された。

 一般会計当初予算の総額は1兆661億700万円(前年同期比4.1%減)と15年度よりは下回ったものの、5年連続で1兆円規模の大型予算である。

 普通建設事業費は2,241億2,500万円(同11%減)で、震災対応分は1,578億500万円(同15.5%減)、通常分が663億2,000万円(同2.1%増)とかなりの大型だが、通常分だけを見ると、10年前と同じ額だ。

 事業費を見て、近頃では沿岸部の工事でも落札率が下がり、「内陸部に工事がない。昨年に増してない」と話す建設関係者の気持ちがわかる気がする。

 ため息交じりで予算のグラフを見入っていた時、県北地区で砕石業を営む知人が訪ねてきた。公務の傍らの来社だったが、話の途中、興味深い資料を手渡された。

 知人の会社が作成した砕石の「標準製品単価表」である。用途別、製品別に土場単価、運搬回数別運賃が2回〜16回と、「運搬距離によって単価が違う」ということが書かれているようだ。

 「砕石納入」という、建設業でも基礎となる業種だからこそ、このような細やかに単価を決め、製品価値を明確にすることがその業種の存在意義を高めていくことになる。当然なのだが、土場単価とダンプの2回運搬の単価では数倍の違いがある。

 「積み上げ方式の設計でも、このような単価設定はできないのでは」と話したなら、「発注者にも理解してほしい」と切実だ。「発注者より元請会社との関係では」と疑問に思いながらも、「今後、会社を維持するために、ここまで考えているのか」と考えさせられた。

 改めて「元請負人と下請負人の関係に係る留意点」を思い浮かべる。

 指値や赤伝処理などは建設業法違反である前に、人としてやってはいけないことである。常に「思いやりの心」は持ち続けたい。

 そうだ、今回の「下請適正取引推進」のテーマは「双方の思いやりの心で建設業は信頼される」としよう。(宮野)