「地盤に関わる技術者が建築基礎の設計・施工に参画できる環境にあったか」―。横浜市都筑区で発生したマンションの傾斜に端を発する基礎杭工事問題に対する提言をまとめている地盤工学会(会長、東畑郁夫・東京大学教授)は、「地盤に関わる技術者が建築基礎の設計・施工に参画できる環境を整えるべき」―などとした5項目の中間提言を発表した。学会は地盤工学的な観点から再発防止に向けた提言を2015年度末までにまとめ、国土交通省などに提出することにしている。
中間提言は、取りまとめに当たって整理した▽建築基礎に関わる技術者は、対象地盤の構成・層厚・深度、各地層の強度(支持力)・変形の特性にばらつきが存在することを理解しなければならない。ただし、そのばらつきの影響を設計で全て考慮できないため、施工時に柔軟に対応する必要がある▽施工時に柔軟に対応したとしてもトラブルが生じることがあるため、設計に必要な地盤の特性をより的確に把握する必要がある―とした前提条件を提示。
その上で「地盤の特性をより的確に把握するために、周辺の地形・地質、既存の地盤情報に基づき適切な地盤調査計画を立案し、そのために必要な数量のボーリングなどを可能な範囲で多く実施することが望まれる」と指摘。「今後、コストに配慮した新しい地盤調査手法や、施工した杭の品質確認が行える手法の研究開発・実用化が必要」との認識を示した。
さらに「既存の地盤情報は極めて有用。地盤情報の収集・活用がより一層推進される必要がある」として、地盤情報の共有化・利活用推進と「地盤に関わる技術者が建築基礎の設計・施工に参画できる環境を整える」ことの重要性を強調。地盤工学会を含む関係諸機関が「建築分野での地盤工学に精通した技術者の育成により一層努めるべき」―などとした5項目の提言を行った。
中間提言の発表に立ち会った東畑会長は「公共での地盤情報の共有はようやく進み始めたものの、行政はそれぞれデータベースを構築している。民間のマンションやビルなどの工事に至っては地盤情報が著作権で保護され、全く情報を共有できる状況にはない」と指摘し、「地盤情報は国民共有の財産のはず。情報共有が不可欠」と訴えた。
提言の取りまとめを行っている同学会特別委員会の古屋弘委員長(大林組技術研究所主席技師)は、「中間提言をさらに純粋に学術的、工学的視点から深堀りし、現行制度に足りないものを明らかにしたい」と話している。
提供:建通新聞社