2016/01/18
多様な入札契約方式の可能性 技術力・体制強化のチャンス(建通新聞社・建滴)
改正品確法に位置付けられた「多様な入札契約方式」を採用する自治体が新たに出てきた。市役所本庁舎の建て替えを計画する東京都清瀬市はコンストラクション・マネジメント(CM)方式で発注体制を補完。設計者の選定から施工管理までの事務をコンストラクション・マネジャー(CMr)にサポートしてもらう。
市は耐震性能の低い市役所本庁舎を、およそ50億円を投じて免震構造を持った延床面積約1万平方bの規模に建て替えようとしている。しかし、営繕の専門部署はなく、1級建築士の資格を持つ2人の技術職員と嘱託職員で通常業務をこなしているのが現状。今回の計画に匹敵する公共施設を建設した実績もないという。
このため国土交通省のモデル事業を通じ、国交省から派遣されたコンサルタントの協力を得てCM方式の採用を決めた。3月にCMrと契約を結び、2021年度までの7カ年にわたる▽設計者選定支援▽設計マネジメント▽施工者選定支援▽施工マネジメント―を委ねる。
多様な入札契約方式は発注者の技術力・体制、工事の特性、地域の実情などに応じて受注者を決めるための選択肢。人材が限られ、財政状況も厳しい自治体にとっては、自分たちだけでは困難なプロジェクトを実現に導く有効な手立てになる。
実際に国交省の他のモデル事業を見ても、設計段階から施工者のノウハウを取り入れるECI(三重県四日市市の体育館建て替え)や、ECIまたは設計・施工一括発注(静岡県島田市の市民病院建て替え)といった方式の採用を検討中の自治体がある。民の力を借りて発注者側の職員やノウハウの不足を補うスキームも模索されている。
公共施設等総合管理計画に基づく施設の集約・複合化や道路構造物の老朽化対策などの課題を抱えた自治体が、多様な入札契約方式を採用するケースは今後間違いなく増加する。ただ、適切な方式を採用しながらプロジェクトを主導するのは、あくまで自治体。「数年に一度しかない大型事業に備えた体制を市町村が常に整えることは現実的に難しい」(国交省)とはいえ、発注者として何が適切かを見極める目を養うための技術力の維持・向上が不可欠だ。
多様な入札契約方式を採用したプロジェクトは通常業務の枠組みを越えた所で進行する。調整や判断の難しい局面も多々出てくるだろう。自治体はそれらを乗り切ったノウハウを確実に共有・継承し、新たなプロジェクトへの備えと通常業務の改善につなげていかなければならない。
完成後の維持管理や緊急対応などを考えれば、地域の建設業やコンサルタントが何らかの形でプロジェクトに関与する余地を残すとともに、改正品確法で発注者責務とされた「中長期的な担い手の育成・確保」にも配慮していく必要がある。
地域の建設業などにとっては技術・技能と自らの存在価値を高め、新たな人材を呼び込む絶好のチャンス。少子高齢化と人口減少が進む中、地域を支える社会資本整備を担い続けていくためにも、多様な入札契約方式を採用したプロジェクトへの積極的な挑戦を期待したい。