2016/01/04
「個」を育て、生かす「産業」に(建通新聞社・建滴)
建設生産システムの持続可能性を高めることはできるのだろうか―。その「分水嶺」となるかもしれない2016年が始まった。建設業でも「女性活躍推進法」に規定された事業主行動計画の策定、そしてその実行が女性の活躍推進への機運をさらに高めることになりそうだ。人材確保・育成が最大の懸案となっている建設業は、いまのこの潮流を「多様性」の持つ価値に対する気付き、言い換えれば「個」の持つ価値の最大化による企業価値の向上につなげていくことができるのだろうか。
激化する国内外の競争を生き抜くために、多様な人材の「個性」を尊重し、働きやすい環境を提供することでシナジーの発現を促すダイバーシティ経営の必要性が指摘されてから10年余り。いまは、多様な「個」の持つ価値を結合、あるいは統合することで、企業価値をも最大化しようというインクルージョン経営の有効性がうたわれるようになっている。
人口減少・少子高齢化と労働力人口の減少を多くの人が言葉としてではなく、体感するようになってきたことも大きい。男社会といわれてきた建設業にあっても、技術者・技能者が「日本人」「男性」であるべきだというこだわりは、なくなってきたように見受けられる。
それでもこの業におけるダイバーシティという概念の認知度は、一部の企業を除いては「女性の活躍の推進」と同義語として認識されている程度にとどまっている。
いわゆる「担い手3法」は、建設業の担い手の育成・確保に対する発注者の責務とともに、建設業事業主団体の責務と国土交通相の責務をも明確にし、国土交通省は社会保険未加入対策の強化をはじめ、経営者が見通しを持って「担い手」を雇用し、処遇を改善できる環境整備を矢継ぎ早に推し進めている。
確かに、経営を安定させ、雇用環境を整えることは企業の持続可能性を高めるだけでなく、建設生産システムを維持・更新していく上でも欠かせない。だが雇用するだけでなく、将来の企業、業、産業を担う人材に育てなければ何にもならない。
気になるデータがある。建設業に入職した12年3月新規高卒者の卒業3年以内の離職率は50%、12年新規大卒者の離職率は30%に上っている。
建設業が人材確保・育成について語るとき、ある時は「担い手確保」と言い、ある時には「人手不足問題」と言っていることと、この数字は無関係とはいえないかもしれない。雇用しただけで「将来の担い手」が確保できる訳ではない。「担い手」は、育まなければ決して生まれはしない。
少なくとも、雇用する側が若者を1人の人間として正面から向き合い、心を通い合わせることができるのか否かが、彼らのモチベーションに大きく影響することだけは間違いない。
若者を取り巻く社会環境は大きく変化し続けている。経済産業省は「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の三つの能力で構成する「社会人基礎力」の必要性を10年前から提唱し、産業界、教育界と連携してその養成に取り組んでいる。
翻って国交省はどうか。建設業はどうなのか。
自分たちの尺度で若者を推し量り、自分たちの価値観を彼らに押し売ってしまってはいないか。建設業界の事情や都合だけでものを言う、一方通行の関係に陥ってしまってはいないか。「担い手の確保」が目前の「労働者の獲得」になってしまってはいないか。
この国の労働力人口の減少は予想を上回るペースで進行している。これからは、ますます産業間の人材獲得競争が激しくなることが予想される。次代を担う若者の多様性と真摯(しんし)に向き合い、それぞれの「個」が持つ固有の能力を最大化することで、それぞれの企業で、そして社会で「個」を生かすための人づくりを実践したい。
建設業の経営者は「職業選択の自由」は、彼ら若者の側にある、ということを忘れてはなるまい。