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2015/10/30

マンション傾斜問題の影響(上) (鹿児島建設新聞・ジレンマ 建設業界の憂鬱)

■建設業界抱える問題浮き彫り 「工期最優先」の影響大

 横浜市のマンションで杭の施工データが改ざんされ、大きな社会問題として波紋を広げている。建設業界内でも「あり得ない話」と驚きを隠せない一方で、「一部の不正が、業界全体のイメージを損なわしている」との不満の声も少なくない。さらに「工期優先」「下請けの多重構造」など建設業界が抱える問題があらためて浮き彫りとなった。(前原和彦・報道部長)

 われわれ業界にとって、2005年11月に発覚した構造計算書偽造問題は記憶に新しいところ。地震大国日本において、建築基準法での耐震基準を満たさないマンションやホテルなどが建設されていたということで大きな社会問題となった。

 当時、業界内でも「本来法令を順守すべき建築士が職業倫理を逸脱し、確信犯的に構造計算書を偽装。建築確認に係る検査制度、建築士制度など制度全体への信頼を失墜させた」と猛省し、襟を正した。

 06年6月には構造計算適合性判定業務の制定や構造計算プログラムの指定強化など建築基準法が改正。審査が厳格化された反面、確認審査の大幅遅延や停滞を招いた。

 今回、問題となったマンションで473本の杭が打たれたのが05年12月〜06年2月。当時、首都圏を中心にマンション建設が活況。国交省によると、国内の年間のマンション着工戸数は20万戸を超え、06年には23万8614戸を記録しピークを迎えていた。その理由の一つに、建築基準法改正前に駆け込みで工事したことが挙げられる。

 そもそも「マンション建設は工期が最優先」と揶揄(やゆ)されるほどタイトな業務を強いられる。他社との激しいマンション販売競争の中、工期の遅れは完成日や入居に影響するため、事業主は計画を変更しづらく、施工業者もそれに従うしかない。それは元請けのみならず、下請け、孫請けまで影響。「工事が遅れれば遅延損害金を求められる。焦りでミスが生まれたり、ミスを見て見ぬふりをしたりすることもあり得る」との声もあるほどだ。

 バブル崩壊後、建設投資額が先細りし、公共事業費も減少の一途をたどっていく中、公共事業から民間事業へ比重をシフトする建設業者が増加。なりふり構わず利益を追求する中、元請けによる「下請け叩き」が問題になったこともある。

 今回の場合も、販売者(三井不動産レジデンシャル)→元請け(三井住友建設)→1次下請け(日立ハイテクノロジー)→2次下請け(旭化成建材)→3次下請け(杭打ち業者)という構図が明らかになっているが、この「下請けの多重構造」が問題だとの指摘もある。

 そもそも、下請けは元請けに報告の義務があり、元請けは下請けに説明を求めることが義務。そのような中、下請けが元請けに対してものが言いづらい構造にも問題がある。

 さらに、建設工事における「元請け責任」はわれわれ業界人は誰しもが理解しているが、「工程が複雑、専門的で、元請けがすべてを完璧に管理するのは難しい」と、元請けの管理強化にも限界があると指摘する声も少なくない。

 兎にも角にも、今回の影響は建設・不動産業界に大きな影を落とした。「業界全体の信頼性が揺らぎかねない」として、再発防止に向けた動きもある。大手建設会社などがつくる日本建設業連合会は杭打ち工事の管理、施工記録のチェック体制を強化するための指針づくりを決めた。

 また、石井啓一国土交通相は、建設業法と建築基準法の見直しを検討することを言及。今後、法改正で万全な仕組みを構築するとみられる。

 東日本大震災の復興、2020年の東京五輪などで建築の繁忙期が続く。工期優先∞コスト削減≠ナはなく、責任を持って手を抜かない日本人の技術者倫理∞技術者魂∞職人気質≠ナ、信用を回復していくしかない。