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中央ニュース

2015/11/02

露呈した建設ものづくりのゆがみ(建通新聞社・建滴)

 横浜市内のマンションで傾きが生じた問題が発覚して以来、国民の建築物に対する信頼が根本から揺らいでいる。安全の「よりどころ」である施工データを改ざんするという狡猾(こうかつ)な偽装方法に、多くの人々が不信感を募らせ、怒りを感じている。

 なぜ、このような偽装問題が起こってしまったのか。背景には何が潜んでいるのだろうか。

 事件の陰に見え隠れしているのは、工期やコストに縛られ「建設事業を通じて国民生活の安心・安全と経済活動の基盤を支える」という使命をどこかに置き忘れてしまった企業の姿だ。

 今回の事件では、建設途中や完成後の確認検査で改ざんを見抜くことができなかった。確認検査機関などによるチェックが、ともすれば性善説に拠って行われているということは、暗黙の了解事項の一つだと言ってもよいだろう。ましてや施工に関する全てのデータを点検することは、物理的にも不可能だ。

 それだけに、施工業者には不正を絶対にしないという法令順守の体現が求められている。

 内部調査によって、深度不足が確認された杭はいずれも基礎工事の完了直前に打たれたことが判明している。たとえ工期に間に合わせるためであったにせよ、データを改ざんし、秘匿していたのなら、確信犯的な犯罪行為にも等しい。一企業が犯した過ちが専門工事業全体、ひいては建設業全体の信頼を損いかねない。

 建築物の施工は、安全性の確保が最優先されなければならない。施工過程の品質管理の在り方に問題はないのか、企業モラルを前提にした現行の検査の在り方に問題はないのか、検証を急ぐ必要がある。

 今回の事件では、納期に余裕がなく、十分な施工時間を確保できなかった可能性が取り沙汰されているものの、担当者がデータの改ざんに手を染めた本当の理由は分からない。ただ、現場技術者への盲目的な信頼に基づく、管理体制の甘さが今回の事態を引き起こした一因であることは確かだろう。

 今回の事態を重く見た日本建設業連合会(日建連)は、元請け企業向けに杭施工の管理体制や施工記録のチェックを強化する管理指針を作成する考えを示している。

 指針の実効性を高めるためには、建設ものづくり(建設生産システム)のほころびやゆがみを直視し、元請け、下請けそれぞれの役割と責任を再確認する必要がある。

 国土交通省は4日に有識者委員会を立ち上げ、再発防止策対策などの検討を始める。ただ、疲弊した専門工事業者の置かれた状況もくみ取った上で、施工管理体制の在り方を議論しなければ、再発防止策が「絵に描いた餅」となってしまいかねない。建設生産システムが抱えている構造的問題に目を背けていては、今回の事件で失墜したエンドユーザーの信頼を取り戻すことはできないだろう。

 建設業界が辛酸をなめてからまだ10年。2005年の構造計算書の偽造問題で浴びた世間の批判を忘れてはならない。