2015/10/26
建設業にとってのBCP わが身、わが組織を守ってこそ(建通新聞社・建滴)
東京都が作成し、全ての世帯に配布した冊子『東京防災』が都民の関心を集めている。サブタイトルは「今やろう。災害から身を守る全てを」。災害への備え、発災後に取るべきアクションなどが分かりやすく記載されている。
首都圏直下型地震や南海トラフ巨大地震などの大規模災害の発生が懸念されている一方で、近年は「想定を超える」自然災害が立て続けに起きるようになっている。
災害がもたらす被害の低減や、復旧・復興に建設業の果たす役割は大きい。鬼怒川の堤防が決壊した関東・東北豪雨でも地元企業らによる迅速な対応は高く評価されている。災害協定の意義もあらためて認識された。
では、個々の企業としての備えはどうか。大規模災害の発生時などの緊急時に果断に行動できるようになるためにも、まずはBCP(事業継続計画)の策定を急ぎたい。早期の復旧を可能にし、中核となる事業を継続するためにも平常時に緊急時に対処すべき事項やその優先順位、役員・社員の役割を明確にしておくことは大事なことだ。
静岡県や栃木県がそれぞれまとめた、全産業を対象とした中小企業のBCP策定状況によると、策定済み企業はいずれも全体の4分の1に満たない。ただ、東日本大震災を契機に、策定に取り組む企業は増加傾向にあるようだ。その背景には行政による後押しもある。
関東地方整備局は2009年、BCP認定制度を全国の地整に先駆けて創設した。人員・資機材の調達、災害時の対応体制、対応拠点の確保などを確認し、その取り組みを認定するもので、10月現在の認定企業数は515社。年間100社程度のペースで増えている。
都県別に見ると、栃木県が全体の4割弱を占める。県が地整による認定企業を総合評価落札方式の加点対象としており、目に見えるインセンティブが多くの企業に策定を促したと言えそうだ。
ただし、地整も県も計画の策定だけを求めているわけではない。評価されるのは、計画に基づく具体的な取り組みだ。このため、審査の際には事業継続計画の改善・点検とともに訓練の実施を確認している。
危機管理の専門家は、緊急時への備えは「エビデンス(証拠、根拠)、共通ルール、訓練の三つが基本」と話す。特に計画を現場で生かすための訓練は重要だという。
“災害大国”に住むわれわれは、幾多の災害・事故からすでに多くの教訓を学んでいる。そして、個人や組織、地域単位での計画づくり、ルールづくりも進みつつある。今なすべきことは、緊急時の行動をより具体的にイメージし、より実践的な訓練を重ねることだろう。
静岡県らの調査によると、BCPの策定に積極的に取り組む企業は増えているものの、中小規模企業のそれは心もとない状況にある。「ノウハウと人材がない」といった声をよく聞くが、実践している企業に聞くと、それは取り越し苦労であることが分かる。
「いつ起こるか分からないアクシデント」だからこそ、何よりも備えを優先するべきだ。わが身、わが組織を守らずして、国土の安全・安心を守ることはできないはずだ。