【連載・建通新聞社】
加入率100%へ〜大詰め迎える建設業の社保対策(5)
■保険加入で重層化改善も
建設業のさまざまな問題の根源は社会保険にある―。国土交通省や建設業団体でつくる社会保険未加入対策推進協議会の会長を務める蟹澤宏剛芝浦工業 大学教授は、建設業が抱える重層下請構造、ダンピング、低賃金などの原因が社会保険未加入問題にあると訴え続けている。社会保険加入が建設業に及ぼす効果 について蟹澤教授に聞いた。
―国交省による社会保険未加入対策で建設業はどう変わったか。
「公共事業労務費調査のデータで見ても着実に加入率は上昇している。対策が始まった当初は、ゼネコン、専門工事業、労働者団体がこぞって『職人が保険に入るわけがない』と難色を示していたが、ここにきて、未加入問題は避けて通れないという意識が定着しつつあるのではないか」
―建設業が未加入問題を引きずっているのはなぜか。
「建設業が社会保険に加入しない理由として『仕事の繁閑があるので雇用できない』という声をよく耳にするが、それにしても職人全員を雇用しないというのは ひどい話。専門工事業者の経営者にとって、保険料が経費の中で大きな割合を占めることは以前から分かっていたこと。結局は、保険料の負担を抑えるため、で きる限り職人を雇用してこなかったということだろう」
「日本の社会が国民皆保険の義務を果たさない企業・個人を許容していることもこの問題の背 景にある。建設業だけに絞っても、職人の派遣やあっせんは法令上で禁止されているはずだが、必要悪としてそれらにも目をつぶってきた。これらのあいまいな 対応が、この問題を根深くした背景にある」
―海外の建設業も同じような状況にあるのか。
「海外では、職人をプロジェクト単位で雇用することが根付いている。日本のように請負やアルバイトなどのような位置付けではなく、雇用という契約形態のため、雇用されている期間は社会保険に加入する」
―「建設業が抱えるさまざまな問題の根源は社会保険未加入にある」と主張してきた。
「職人を社員化し、社会保険に加入させる企業が存続できる市場環境を整えることが理想だが、実際には保険加入というルールを守らずに、得られた原資をダン ピング行為に使ってきた企業が生き残っている。こうしたことから、国交省に対して『不良不適格業者』の定義を社会保険で見るべきだと以前から主張してき た」
―社会保険加入は重層下請構造の改善にもつながるのか。
「社員化して保険に加入すれば、無理に重層化する必要はなくなるはず。下 請けも3次程度に抑制できるのではないか。社員化は生産性の向上につながる部分もある。重層下請構造で分業化が進み過ぎたことは現場の稼働率の低さを生ん だ。マンションの建設現場では、職人が1日8時間の半分しか作業をしていないこともあるようだ」
「バブル期に職人を多能工にするという議論が あったが、社員化しない前提であったためにうまくいかなかった。ただ、リニューアル工事が増加する中、多能工を生かす機会は確実に増えている。例えば、塗 装業の社員であれば、足場を組み、塗装、養生を自ら施工する多能工であることが前提になる。職人一人一人の生産性が上がるため、賃金アップにもつながるだ ろう」(おわり)