2015/08/20
【連載】加入率100%へ〜大詰め迎える建設業の社保対策(1)
【連載・建通新聞社】
加入率100%へ〜大詰め迎える建設業の社保対策(1)
■残り1年半、求められる法定福利費の移転
5年間で企業単位で許可業者の加入率100%、労働者単位で製造業相当の水準を目指す―。2012年度に建設業の社会保険未加入対策がスタートしてから、国土交通省は建設業許可・更新時の加入指導、公共工事からの未加入企業の排除、法定福利費の確保など、さまざまな面で対策を講じてきた。この結果、建設業の社会保険加入率は対策前と比べ10ポイント以上上昇している。目標の17年度が残り1年半に迫った今、国交省をはじめとする関係者はこれまでの対策をどう捉え、今後、どういった対策を打つべきと考えているのか。『大詰め迎える社会保険未加入対策〜2017年度に向けて』と題し全5回にわたり連載する。
技能者が直用・準直用として使用される建設産業では、社会保険、特に年金保険、健康保険、雇用保険の3保険に加入していない企業・労働者が他産業に比べて多い。この問題が技能労働者の処遇低下、若年入職者減少の一因になっているとみて、国交省は12年度から本格的な対策に踏み切った。
12年11月に始まったのが建設業許可・更新、経営事項審査時における加入状況の確認だ。この段階で未加入であることが確認されると、まず建設業許可部局による加入指導が行われ、指導に従わない場合には、社会保険関係部局に通報される。
さらに国交省は、目標年度である17年度までに建設業許可の更新期限が訪れない業者に対し、今秋から事前通知を送るなど、指導の前倒しを図ることも決めている。
公共工事からの未加入企業の排除も進んでいる。国交省は、昨年8月から下請け金額の総額が3000万円(建築一式は4500万円)以上の直轄工事で、未加入の元請け・1次下請けの排除を始めた。さらに、今月1日からはこの排除措置の対象を全直轄工事に拡大。これまで対策を講じてこなかった他の発注機関にも対応を促している。
もともと元請けの社会保険加入割合は下請けに比べて高いが、現場における下請けへの加入指導が求められている。国交省がまとめた「社会保険の加入に関する下請け指導ガイドライン」では、17年度以降、未加入の企業・労働者を現場に入場すべきではないとの方針が明記された。直接の下請けには保険料の領収済通知書の写し、2次以下には再下請負通知書、労働者は作業員名簿で加入状況を確認し、加入を指導することが求められる。
14年10月時点の公共事業労務費調査によると、対策前から加入率が高かった元請けを除き、この3年間で1〜3次下請けの3保険の加入率は10ポイント前後上昇した。ただ、労働者単位と企業単位の加入率には20ポイント程度の開きがある。
労働者単位で加入を進めるためにも、対応が急がれるのが社会保険料の原資である法定福利費を確保する取り組みだ。ことし1月に開かれた社会保険未加入対策推進協議会では、参加する国交省や建設業団体などが法定福利費を内訳明示した見積書を提出・尊重することをあらためて申し合わせた。国交省は15年度から、別枠支給や事後精算などで法定福利費の支払いを担保する手法を検討する。加えて、現場に入場する労働者数を把握し、法定福利費を正確に算定できる就労履歴管理システムの構築にも官民共同で取り組むことにしている。