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2015/10/05

安全は担保されているか EV事故判決とPPP(建通新聞社・建滴)

 指定管理者制度を適用していた東京都港区の公共賃貸住宅で2006年6月に発生したエレベーター事故の判決公判が9月29日、東京地方裁判所であった。

 1人の若者の命が奪われた不幸な事故から9年余。この間にもこの制度をはじめとするPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)の裾野は広がっている。行政に対するコスト縮減圧力がますます強まる中で、果たして公民連携(PPP)による公共調達の安全性は、担保されていると言えるのだろうか。

 東京地裁は、当時、指定管理者であった港区住宅公社から保守管理業務の再委託を受けていたエレベーター保守点検会社の役員ら3人を有罪とした。司法が示した「責任の所在」についての考え方もさることながら、それ以上に維持管理分野での公共調達の在り方であり、PPPの運用におけるセーフティネットの有無が気になるところだ。

 この事故では、国土交通省が社会資本整備審議会建築分科会建築物等事故・災害対策部会の下に置いた昇降機等事故対策委員会が、再発防止の観点から09年9月に事故調査報告書を公表。消費者庁も13年8月に「国土交通省が行った調査結果についての消費者安全の視点からの評価」を公表している。

 中でも注目したいのは、消費者庁が公表した「評価」の中で、事故原因の究明と再発防止、重篤化防止の観点から考えられる個別要素として▽エレベーター本体の問題▽エレベーターの保守管理に関する問題▽情報共有と管理体制に関する問題▽事故発生時の重篤化防止に関する問題―の四つを挙げた上で「消費者安全法第24条第3項に基づく調査を自ら実施する」としていることだ。

 残念ながら調査結果はまだ公表されていないが「消費者目線」をうたう調査からいったい何が見えたのか、分かったのか、期待感を持って公表を待ちたい。

 裁判の過程ではエレベーター製造会社といわゆる独立系事業者との情報共有の欠落が、事故原因の一つになったことが指摘されている。指名競争入札によって委託業者を決めていた事故発生時の委託金額が随意契約していた時のそれよりも、相当下落していたことも分かっている。

 それでもなお9年余の歳月を掛けて司法判断が示された今でさえ、施設設置者のこの事故の受け止め方には、大きな温度差があるように感じられる。

 たしかに、それまでのPPP運用ガイドラインを事故後に見直したり、業者選定の際に総合評価を導入したりした自治体もある。だが、ある自治体が指定管理者の選定に用いている総合評価の「危機管理・安全管理」「職員の配置体制」への配点は10〜20点。片や「市費の縮減」への配点は50点。その自治体が何を優先しているのかは歴然としている。

 行政でさえ、持続可能性が危ぶまれる時代だ。東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年以降は、この国の歳出削減圧力がこれまで以上に強まりそうだ。多様なPPPが公共調達の手法であることは間違いない。ただし、人の命よりコスト縮減を優先する「公民連携」であってはならない。