2015/09/08
歩切り根絶 決別は発注者責務(建通新聞社・建滴)
国土交通省と総務省が行った歩切り実態調査の結果、ことしの1月以降に歩切りを取りやめた地方自治体が417団体に上ったことが分かった。
これは前回の調査で歩切りを行っていると回答した757団体の55・1%に当たる。歩切りをやめた417団体の中には「端数処理等」を廃止した地方自治体も57団体あった。この結果、全国1788団体の81%に相当する1448団体が、設計金額と予定価格がイコールな状態で入札を執行していることになる。残る340団体には、説明責任が果たせない発注者都合の歩切りとは、一日も早く決別してもらいたいものだ。
かつて、首都圏の地方自治体の入札業務の執行責任者が、歩切りしている理由を「市場原理を導入するため」と、ダンピングを助長するかのように、平然と言い放ち、消費財と公共財の違いすら理解していないことを露見したことがあった。さらに県の土木事務所長が地域の建設業協会との意見交換の場で歩切りについて説明を求められた際、説明すればするほど支離滅裂となり、その場の空気が寒々となったことも忘れられない。
要するに、歩切りを行ってきた理由は「慣例」なだけであり、「自治体財政の健全化」にかこつけた歩切りは、高品質な社会インフラの整備、建設業の持続的な発展を阻害するだけだということを再確認すべきだ。
このような悪しき慣例が全国で常態化してしまったことが、こんにちの深刻な担い手不足を生んだ要因の一つといえよう。
地方自治体は、地方の雇用を支え、自然災害から暮らしを守ってきた建設業の存続が危ぶまれている現状を認識しているのだろうか。企業収益の悪化、人員の削減、劣悪な労働環境、担い手の不足といった負の連鎖から抜け出せないまま消耗戦を続け、経営を断念せざるを得ない建設企業が続出した事実から目を背けるべきではない。
昨年6月に施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」の一部改正により、歩切りの違法性が明確になった(品確法第7条第1項第1号)。今後は石川県のように、県内の市町と個別に直接協議し廃止に同意を得たり、さまざまな場で働き掛けを継続して、「歩切りは行わない」という首長の強い意思とリーダーシップを引き出す必要がある。
歩切りの根絶を強く訴え続けた全国中小建設業協会の松井守夫会長が、「多くの地方の建設企業は苦しみ続け疲弊した」と語気を強めたことがあった。改正品確法では発注者責務の明確化を位置付けている。建設産業の目下の最大の課題である担い手不足の主因は、賃金の低さなど労働者の処遇にある。
地方自治体は今後、若年入職者を増やし、担い手を育成・確保するためにも、地域のインフラを守る建設企業が安定した経営を継続する原資を剥ぎ取るような歩切りを、厳に慎むことが発注者の責務の一つであることを認識すべきである。