2015/08/26
真の観光立国へ一翼担いたい(建通新聞社・建滴)
ことし1〜7月に日本を訪れた外国人旅行者数は、過去最高だった2014年同期比で約47%増の1105万人に達したことが、日本政府観光局(JNTO)が8月19日に発表した集計結果で明らかになった。「観光立国」を標榜する政府にとっても、アジアを中心に訪日外国人が急増しているいまの状況は、歓迎すべきことだろう。
ただ、手放しで喜んでばかりもいられない。ホテルなど「宿泊施設の不足」という問題が常態化しているからだ。観光庁の宿泊旅行統計調査(15年1〜3月期)によると、東京の宿泊施設の稼働率は80・7%。ビジネスホテルに至っては85・0%と過去最高水準の稼働状況にある。現に、都内のホテルでは客室の確保が困難な状態となっていて、多くのビジネスマンが悲鳴を上げている。
政府が掲げた「20年までに訪日外国人の数を年間2000万人にする」という目標の早期達成が現実味を帯びてきただけに、空き家を宿泊施設に転用する規制緩和など、宿泊需要に対する受け入れ態勢を柔軟に整えたいところだ。
すでに、宿泊業界以外のデベロッパーやベンチャー企業の中には、眼下の状況を「ビジネスチャンス」と捉え、さまざまなアイデアでホテル事業に新規参入する動きがある。都心部に立地する低稼働のオフィスビルなどを、2段ベッドが並ぶ廉価な簡易宿泊施設に改装する事例などがそうだ。
住居用のマンションや古民家を含む空き家の活用も検討の余地があるだろう。防火や防犯などの安全対策に万全を期すことが大前提ではあるが、従来は旅館業法で宿泊施設と認められなかった物件でも、特区制度などを活用することで、宿泊客の受け皿となる施設を整備できる可能性が高まる。
すでに、空き家の活用に向けて動き出した団体もある。全国不動産コンサルティング協会らは「全国空き家相談士協会」を立ち上げた。空き家情報の共有を図るための全国ネットワークを形成し、活用やリノベーションなどのビジネスにつなげる。同協会の林直清会長は「当然、宿泊施設への転用も活動の柱として検討していく。空き家の『専門家集団』の立場から、宿泊施設に誘導できる手法を考えたい」と意欲を見せる。
訪日外国人の急増は、滞在や買い物に有利な為替の円安基調に負うところが大きい。一過性の特需に浮かれてはならない。今のこうした状況を、日本の観光産業の底上げを図る契機、言い換えれば「中長期的なインバウンド対策として、どのような受け皿が必要なのか」を見つめ直す好機とするべきだ。
わが国の観光政策の裾野を広げることは、雇用の創出や伝統産業の活性化などをもたらす。不動産業界には、政府や自治体などとともに、より多くの外国人を日本に招き入れることができる魅力的な空間づくりを提供する、「真の観光立国」の一翼を担う存在となってほしい。