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2015/07/07

「転倒」事故が示す担い手不足(建通新聞社社説)

 7月1日、足場からの墜落・転落による労働災害防止措置の強化を目的とした改正労働安全衛生規則(安衛則)が施行された。安衛則の改正を一つの契機として、あらためて足場からの墜落・転落防止措置の徹底に全力で取り組みたい。その一方で、改正された安衛則の施行を意識する余り、つい見落としてしまいそうなのが厚生労働省が2015年度に入ってから発信している、最近の労災の発生状況分析に基づく二つのメッセージだ。

 その一つは、近年、建設業で増加している「転倒災害」についてだ。「これまで、ともすれば転倒災害を軽視してきたかもしれないという反省がある」(安全衛生部)という厚労省は、15年12月末までの予定で「STOP!転倒災害プロジェクト2015」を展開中だ。

 厚労省がまとめた14年の労働災害発生状況を見ると、転倒災害は産業全体を見ても休業4日以上の死傷災害の2割以上を占め、災害の種類の中では最も件数が多くなっている。高年齢労働者が転倒災害を発生させた場合、その災害の程度が重くなる(重篤化する)傾向にある。

 建設業でも事業場内での高年齢労働者の転倒災害が増えている。その背景には、顕在化し、深刻化している建設業の担い手不足がある。

 同省の安全衛生部(安衛部)によると「建設業の場合、一度リタイアして再び第一線に復帰した高齢者や、他産業で働いていて建設業に入職した高齢者が事業場内の段差のあるところなどで転倒してしまうケースが目に付く」のだという。

 はからずも建設現場における最近の労働災害の発生状況は、労働力人口の高齢化が「教育訓練」の不足と安全衛生マネジメントの弱体化とが合わさったとき、建設業の安全を脅かす「危険因子」になりかねないことを如実に示している。その根っこの部分では、建設業の人材確保・育成という構造的・複合的問題が密接に絡み合っている。

 労働力人口の高齢化はこれからも否応なく進行していく。すでに技術者、技能者、単純工のいずれもが高齢化している建設業には、高齢者の身体的、精神的特性を加味した教育訓練と労働安全衛生マネジメントの充実が求められている。

 もう一つは「熱中症対策」の徹底についての呼び掛けだ。
 14年に熱中症で死傷した人は建設業が最も多く、厚労省は、建設業と建設現場に付随して業務を行う警備業を製造業とともに15年の重点業種に指定している。

 屋外作業の多い建設業は体温のコントロールが難しい。厚労省はWBGT値(暑さ指数)を確認した上で、▽簡易な屋根や冷房設備の設置▽通気性のよいクールジャケットの装着など作業環境管理の充実を促しているが、特に大事なのが健康管理の徹底と「暑さ」への順化だ。場合によっては「作業を行わない」という判断があっていい。

 気温、湿度ともに高く注意が散漫になりやすい季節だ。新規就職者、高齢者だけに労災増加の原因をみることなく、建設業に従事する全ての労働者はいま一度、労働災害の90%が「不注意」と「不安全行動」が原因で発生しているという事実を認識し、自戒したい。

提供:建通新聞社