財政制度等審議会(財政審、会長・吉川洋東大大学院教授)は1日、財政健全化計画等に関する建議を麻生太郎財務相に提出した。予算編成に向けた財務省の姿勢を代弁する財政審は、公共事業費に対して厳しい目を向け続けてきたが、今回はこれまでの建議とのトーンの違いが感じられる。
財政審の建議は経済財政諮問会議の意見とともに、政府の予算編成方針に反映され、新年度予算の概算要求基準に大きな影響を与える。
麻生財務相に1日に提出された建議は「17年4月に予定されている消費税率の引き上げによって得られる税収分は全て社会保障財源に充てることになっており、歳出全体が増加することは国民の理解が得られない」などと指摘。デフレ脱却・経済再生による税収増を図るとともに、プライマリー・バランス(PB)の赤字解消に向けた歳出改革を進めることをあらためて求めている。
公共事業費については、国際競争力強化や防災対策を例外とすることなく、新規投資について「これまで以上に厳選する」ことを記載。既存インフラの老朽化対策のための予算についても、人口減少を見据え、安全性を維持しながら費用を抑制するよう求めた。公共事業の担い手についても言及し、生産年齢人口の減少が見込まれる中で、今後の建設業の就労者数の見通しを「現在の公共投資の水準すら維持できなくなる恐れが高い」との懸念も示している。
国の15年度当初予算における公共事業費は、1997年度のピーク時とを比較すると6割程度にまで落ち込んだ。この3年間に限っていえば、ほぼ横ばいで推移しているが、今回の建議には「中長期的視点に立てば、景気対策などで大きく変動させるのではなく、維持管理・更新費用を含め安定的″に推移させていくべきである」といった記述もみられる。「毎年度3%削減を目指すべき」などと公共事業費の削減を強硬に求めていた13年11月の建議と比べれば、その論調は明らかに変化した。
財政審の建議は、財政制約や人口減少が進行しているという現状を踏まえ、公共事業費を増加させないことを「前提」にしている。だが、その一方では、公共事業費の大幅な削減が続けば、インフラの老朽化、災害時の生命財産を守るインフラの機能低下を招き、結果的に社会全体に大きなマイナスの影響を与えるという認識がようやく財務省を含めた政府全体で共有されつつあるようにもみえる。
12・13年度と続いた大型補正や、昨年4月の消費増税に伴う建設投資のような大幅な増加は、今後はおいそれとは期待できない。それでも、公共事業費を安定的に推移させようという空気は間違いなく広がってきているようだ。
建設産業界は、この機を逃してはならない。担い手の確保と生産性の向上を経営の優先課題として、足腰の強い産業構造へと転換し、個社の体質強化に努めなければならない。すでに現在の投資規模でさえ、企業が生き残っていくことは困難な状況にある。十数年も続いた低価格競争による激痛を忘れ、産業全体を疲弊させる愚行を再び繰り返すようなことがあってはならない。
提供:建通新聞社