建設経済研究所は21日に発表した「建設経済レポート」で、公共投資の経済効果について考察している。1980年代以降、公共投資を景気刺激策として捉える傾向が強まり「公共事業が非効率なため、フロー効果が低下している」といった批判につながっていると分析。フロー効果の低下は企業のリストラや年金崩壊への不安による消費の減退が大きな要因と反論する一方で、公共投資の本来の目的である「ストック効果」に立ち返り、効果の発揮までに長期間を要しても、ストック効果の大きい事業を戦略的に進めるべきと提言している。
公共投資の経済効果は、フロー効果とストック効果に大きく分けられる。フロー効果は、投資が最終的に民間需要をどれだけ生み出すかというもの、ストック効果は社会資本の整備で継続的に得られる効果で、経済活動の効率性・生産性の向上、国民生活の衛生環境の改善、防災力の向上などが含まれる指標だ。
公共投資に伴うフロー効果は、工事を請け負った建設会社の売上、原材料購入費、企業収益、雇用者所得につながり、最終的に公共投資の1単位よりも経済効果が乗数的に波及、▽労働分配率▽限界消費性向▽企業の限界支出性向▽限界輸入性向▽―の四つの要因に左右される。
レポートでは、これらの要因が、企業の投資態度や生産ネットワークのグローバル化、家計部門の消費態度などに影響を受けるため「公共事業が非効率なためフロー効果が低下する」という批判が的外れだと指摘。近年のフロー効果の低下が、リストラや年金不安、企業の設備投資減少・内部留保の積み上げなどに起因するもので「公共事業のせいではない」と反論している。
一方、ストック効果については、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)を例に挙げ、沿線の新規工場立地面積が全国平均と比べ、3・3倍の規模で進んでいると指摘。今後も全面開通をにらんで工場や物流施設の新設の動きが活発化し、さらにストック効果が期待されるとしている。
レポートでは、1985年のプラザ合意による円高不況対策として公共投資が活用されて以降「公共投資の経済効果の関心がフロー効果に偏ってしまった」と振り返り、ストック効果を重視することが必要だと強調。用地取得や工期が長期に及ぶ事業であっても、ストック効果の大きい事業を戦略的に実施すべき、と締め括っている。
提供:建通新聞社