国土交通省は、東日本大震災の教訓を踏まえ、一筆ごとの土地の境界や面積などを明確化する地籍調査の促進に向けた取り組みを強化している。特に南海トラフ沿いの地震などによって著しい被害が懸念される地域で地籍調査を早急に進めるため、これらの地域で地籍調査の基礎となる「都市部官民境界基本調査」を優先的に実施する。公共事業の測量成果を地籍整備に有効活用する仕組みを、全国の直轄工事で積極的に活用する取り組みも2012年度から始めた。
地籍調査は、一筆ごとの土地の境界や面積、所有者などを明確化し、登記簿に正確な地図情報を反映させるもの。1951年に制定された国土調査法に基づき、市町村が実施主体となって取り組んできたが、11年3月末時点の進捗率は49%と5割に満たないのが現状だ。特に関東や中部、近畿など人口・産業が集積した太平洋沿岸部では取り組みの遅れが目立つ。
地籍が不明確なまま、大規模な地震が起こると、被災地の復旧・復興に際して土地境界をめぐるトラブルが起こりやすい。地震や津波によって大きな被害を受けた東日本大震災では、津波浸水地域の約9割で地籍調査を終えていた。このため、「過去の成果を補正・チェックする手法などによって、正確な地籍情報を早期に回復することが可能となった」(国交省)。一方、未完了の地域では、復興後のまちづくりの妨げとなる懸念がぬぐえないという。
こうした教訓を踏まえ国交省では、巨大地震の到来が指摘されているにもかかわらず地籍整備が遅れている地域で取り組みを強める必要があると判断した。
具体的には、道路など公有地と民有地の境界調査を国直轄で先行実施する「都市部官民境界基本調査」の執行に当たり、大規模地震対策特別措置法の「地震防災対策強化地域」や、東南海・南海地震防災対策特別措置法の「東南海・南海地震防災対策推進地域」など、大きな被害が想定される地域を優先していくことにした。
また、10年5月に策定した第6次国土調査事業10カ年計画には、「国土調査の成果と同等以上の精度または正確さを有する国土調査以外の測量・調査の成果などについても活用を促進する」ことが明記された。
これを受けて国交省は、国土調査法に基づく指定制度の活用を促進するため、12年度から直轄工事の用地実測図(買収用地と分筆後の残地も含めて測量した正確な地図)を指定申請するよう、地方整備局などに働き掛けている。指定を受けた測量成果は、地籍調査が終了した地域と同等の取り扱いを受けることができる。
提供:建通新聞社