下請け業者の連鎖倒産防止に向けて国土交通省は30日、「新たな下請代金債権保全策検討委員会」の初会合を開き、元請け倒産時に下請け代金を保全する仕組みの検討を本格化させた。今回は信託方式を活用した下請け代金債権保全策の方向性を話し合い、本年度中にも直轄工事で試行することを確認した。次回会合で支払ボンドの制度設計を議論した上で、今夏までに最終報告をまとめる方針だ。
この委員会は、本年3月に発表した入札契約制度改革に下請け債権保全策の検討が盛り込まれたことを受けて、国交省が設置した。6月初旬に開いた準備会合で、日本の法体系になじむ手法として、信託方式と支払ボンド方式の2方式を軸に検討を深めることを決めた。
初会合で取り上げられた信託方式は、発注者から元請けが受け取る工事資金を信託財産化し、下請けへの支払資金をあらかじめ分離・保全しておくことで、元請け倒産時にそこから下請け代金を支払う仕組み。信託手法として、▽信託銀行に工事請負代金を信託する「信託銀行活用型」▽元請けが信託財産を管理する「自己信託活用型」―という二通りの手法を想定している。
信託方式の活用に当たっては、保全すべき請負代金債権の割合を請負代金総額から前払金相当額(4割)を除いた額の5割程度とする方針。例えば、請負代金が1億円の場合、下請けへの支払いのために保全する額は3000万円となる計算だ。保全対象は2次下請け以下も含めることが望ましいとしつつ、試行段階では1次下請けまでに限定する。
元請け倒産時の受益権の配分に際しては、工事の出来高査定が重要なポイントとなる。このため、倒産時にはあらかじめ信託契約で定めた出来高査定人(弁護士、建築士、民間の出来高査定機関、事業協同組合など)に委ね、出来高査定に要する費用は信託財産の中から優先的に支払う。
自己信託の場合には、信託財産を保護するため、固有財産とは別の銀行口座で管理することを義務付けた上で、分別管理義務違反へのペナルティーを検討していく。
信託銀行を活用した下請け債権保全の仕組みとしては、請負代金債権を信託し、信託銀行はそれを担保に下請け代金債務を引き受ける「債務引受方式」という手法も示した。
こうした制度設計の方向性に対し、日本土木工業協会公共工事委員会に所属する鹿島土木管理本部土木企画部長の利穂吉彦委員は「元請けの手間とコストが掛かる印象を受ける。価格競争が厳しい中にあっては、公共工事の積算に反映されても仕方がない。経営を圧迫する要因にもなり得る」と指摘した。また、全国建設業協会副会長で林工組代表取締役の伊藤孝委員も「しっかりと元請けの責任を果たしているところにまで余分なコストを掛けさせるべきではない」と同様の懸念を表明した。
提供:建通新聞社