建設投資の減少に伴い国内のセメント出荷の減少が続いている。2009年上期には、前年同期比14%減という、オイルショック期を上回る過去最大の減少幅を記録した。09年の年間出荷量が、ピーク時の約半分の4300万dを下回る公算も大きくなってきた。新政権による公共事業の大幅な削減で、10年には4000万dを割り、45年振りに昭和40年代初期の水準に落ち込む可能性も出ている。セメント工場は現在、原料や燃料として廃棄物を大量に使用しており、このまま減少が続けば受け入れに支障が出ることも懸念される情勢だ。
セメントの国内需要は90年に8628万dのピークを記録した後、景気の低迷や公共事業の削減で減少。マンション需要などで一時的に下げ止まりの気配が出た時期もあったが、改正建築基準法が施行された07年から再び下降局面に入り、昨年秋以降の景気悪化が減少幅を拡大させている。
そういった状況の中、9月に発足した新政権が公共事業のさらなる削減を打ち出した。例えばダム事業では、全国で計画中の143事業を見直すことにし、このうち48事業について09年度内の新たな契約を凍結した。セメント協会によると、コンクリート重力式ダムのセメントの平均出荷量は1事業あたり14万d。仮に48事業が中止されると672万d、143事業だと2002万dの需要が消えることになる。
[年間3000万d台を覚悟]
同協会流通委員長の桂知行・住友大阪セメント専務は「年間の国内需要が恒常的に3000万d台になる可能性を覚悟する必要があるのではないか」と、今後の需要を予測する。
こういった見通しに関し、同協会会長の渡邊穰・住友大阪セメント社長は「緊急対応として、操業や、設備の補修の在り方などをきめ細かく見直す」と、コスト削減を積極的に進める考えを示す。
また、同協会副会長の麻生泰・麻生ラファージュセメント社長は「需要減のダメージは大きい。コストダウンとともに、適正な値段を維持していかなければならない」と話す。
同じく副会長の徳植桂治・太平洋セメント社長は「新政権の考え方からすれば需要について多くは望めない。過剰な設備を廃棄し、過剰な雇用にも手を打っていくしかない」と厳しさをにじませる。
全国のセメント工場では現在、高炉スラグや石炭廃、汚泥、建設発生土、廃プラスチックなど年間約3000万dの廃棄物や副産物を、原料や燃料として使用している。08年度実績では、セメント1トン当たり448`cの使用量だ。
需要減にあわせ、各工場ではすでに設備の稼働率を低下させており、「下水汚泥などを休まず受け入れるため、細く長く運転している状態」だという。今後、セメントの需要減が一層進めば受け入れに支障が発生する可能性が高い。
[独国と同水準]
セメント協会によると、日本の人口1人当たりの年間セメント使用量は340`c(07年度実績)で、海外の主要国と比べ特に多くない。韓国(1042`c)と中国(1024`c)は日本の3倍、イタリア(784`c)は2倍使用している。フランス(401`c)や米国(366`c)も日本を上回る。英国(238`c)よりは多く、ドイツ(332`c)とほぼ同水準だ。
太平洋セメントの徳植社長は「日本は欧州に比べ地震や洪水、津波の危険が高い。対策のために1人当たりのセメント需要が400`cあってもおかしくない。経済力など国力を考えると今の状況は常態ではない。このままだと日本が破綻するのではないかという危機感を持っている」と言い切る。
同協会では今後、新政権と何らかのかたちで意見交換する場を持っていきたいと考えている。
提供:建通新聞社