国土交通省は、2010年度予算の新たな概算要求額を国費ベースで前年度当初予算(6兆3573億円)比3%減の6兆1943億円にすることを決めた。この中には、新政権がマニフェスト(政権公約)に盛り込んだ高速道路の無料化に向けた社会実験などに充てる6000億円も含まれる。こうした施策の費用を捻出(ねんしゅつ)するため、公共事業関係費は14%減の4兆9167億円とし、過去最大の下げ幅まで削り込んだ。政府は各府省の概算要求を行政刷新会議と財務省で査定し、12月までの政府予算案編成を目指す。
国交省の概算要求は、「税金の使い道をコンクリートから人へ」という新政権の方針を忠実に実行する内容となった。公共事業関係費の削減額は8157億円。前原誠司国交相が10年度から直轄事業負担金の維持管理分について地方負担金の廃止を打ち出していることから、地方負担金収入(約1700億円)がないものと見なし、その穴埋めに建設事業に充ててきた国費を活用する。こうした影響もあり、事業費ベースの公共事業関係費は前年度当初比18%減の12兆0462億8700万円とマイナス幅が広がる。
民主党のマニフェストには、13年度までの4年間で政府全体の公共事業費を1・3兆円(国交省分は約1兆円)節約するとの考え方が盛り込まれている。前政権下で8月末にまとめた概算要求は、経済危機に対応するため総額7兆6260億円、公共事業関係費6兆9506億円を計上した。しかし、新政権下では11年度以降も公共事業関係費の削減が続く可能性が高い。
一方、国交省が成長戦略分野に位置付ける観光分野には、前年度当初に比べ4倍増となる257億円を要求した。2泊3日以上の滞在型観光が可能な「観光圏」の整備促進に向け、地域が主体となって行うソフト面の取り組みを充実するとともに、ハード面についても新たに支援する。
また、建設業の国際競争力を強化するため、大手ゼネコンが高度な技術力を生かして海外で事業展開するための人材育成支援を重点化するとともに、優位性のある技術力を持った地方・中小建設業者の海外展開を支援するためのアドバイザー制度を創設する。
09年度補正予算の見直しで10年度分の執行停止を決めた「下請資金繰り支援事業」については、経済情勢や業界を取り巻く環境などを見極め、予算編成の中で継続するかどうかを判断する。
主要経費・施策ごとの考え方は次の通り。
【治山・治水】
前年度当初比1%減の8030億7400万円を計上。ダム事業の予算を縮減する一方、重要河川の堤防強化や災害時要援護者のための土砂災害防止対策といった予防的な治水対策を重点化する。
具体的には、時間雨量100_のゲリラ豪雨への集中的な対策と関係者の役割分担などを定めた「100_/h安心プラン(仮称)」の策定や、河道改修と調整池の一体的整備に取り組む地域の事業を優先的に実施する仕組みの創設などを想定している。
【道路整備・道路環境整備】
前年度当初比12%減の1兆0736億円を計上。真に必要な道路事業を重点化するとともに、開通時期が近いものや事業年数が短いものを優先する。また、原則として新規事業を行わず、加えて事業個所数を2割程度削減する。
このほか、地域の実情に合わせて道路インフラ整備を中心に活用する「地域活力基盤創造交付金」(道路特定財源の一般財源化に伴い創設、住宅都市地域環境整備分野で計上)は前年度当初比20%減の7520億円と大幅に削減した上で、前政権が「8割程度を道路整備に充てる」としていた考え方も白紙で見直す方針だ。
【港湾・空港・鉄道】
港湾はスーパー中枢港湾プロジェクトを重点化し国際競争力を高めるとともに、拠点的な港湾では輸送船舶の大型化に対応した港湾施設の機能強化に取り組む。
空港は羽田空港の整備(再拡張・C滑走路延伸)を着実に実施する一方、一般空港の施設更新などは次年度以降に先送りする考え。
整備新幹線は開業予定時期が遅れないよう前年度予算と同額を確保したが、新規着工に向けた調査費などの計上は見送った。都市・幹線鉄道は新規着手などを取りやめる。
【下水道・都市公園】
下水道事業は12%減の5193億4700万円。他の汚水処理施設も含めた地方公共団体整備計画の見直し状況を踏まえ、未普及地域対策のための予算を削る。一方で、浸水、地震などへの安全対策・環境対策(下水汚泥の有効利用)は優先度を高め必要額を確保する。
都市公園事業費は8%減の913億3600万円で、市街地の防災対策事業や緑地環境保全事業の必要額を確保しつつ、事業の効率化により予算を縮減する。
【住宅・都市地域環境整備】
住宅対策には20%減の5037億5000万円を計上。住宅供給や市街地整備を行う事業の予算を削減する一方、マニフェストに掲げた中古流通・リフォーム施策や高齢者向け賃貸住宅の整備、耐震改修施策に対して前年度以上の予算を確保する。
都市地域環境整備には22%減の1兆4013億3100万円を計上。市町村合併関連事業がほぼ終息したことなどを踏まえ、まちづくり交付金を削減する。他方、お堀の浄化など観光関連施策は必要額を確保する。
【官庁営繕】
新営事業の新規採択を老朽・狭隘(きょうあい)化が著しい税務署などに限定するとともに、継続事業についても、庁舎の過半が建築基準法の耐震基準に達していないなどの条件を満たしたものだけに絞り込む。耐震改修は耐震性能評価値が0・5未満の施設について新規に実施する。
提供:建通新聞社