国土交通省の昇降機等事故対策委員会(委員長・向殿政男明治大学教授)は、2006年6月に東京都港区で起こったエレベーター死亡事故に関する初の調査報告書をまとめた。それによると、事故の直接的な発生原因はブレーキライニングが摩耗しブレーキドラムを押えられなくなったためと推定。事故機やその隣接機の不具合発生頻度が、ほかの管理者のものと比べ20倍から90倍と極めて高かったことを踏まえ、設計上・保守管理上の問題点にも言及した。
今回の調査報告書は、8日の社会資本整備審議会建築分科会建築物等事故・災害対策部会に示した。調査対象となった事故は、2006年6月に東京都港区の公営住宅「シティハイツ竹芝」で発生。男子高校生がエレベーターから降りようとしたところ、戸が開いたままの状態でエレベーターが上昇し、乗降口の上枠とかごの床部分の間に挟まれ亡くなった。当時、港区住宅公社が管理していた。
報告書の中では、事故の事実情報やその分析結果を基に発生原因を推定。これと合わせ、国交省が講じた再発防止対策の検証と今後の取り組みの在り方を明確化した。
それによると、事故機は▽ブレーキコイルの抵抗値が定格値の約半分だった▽(事故機の)隣接機と比較してブレーキライニングの摩擦量が多かった―という状態であり、こうした点から▽ブレーキコイルの巻線が短絡(ショート)し、ブレーキが半がかり状態で運転したことにより、ブレーキライニングの摩耗が進んだ▽その結果、ブレーキライニングがブレーキドラムを押えることができなくなった―ことが事故につながったものと推定した。
また事故機と隣接機の不具合発生頻度は、都市再生機構や東京都住宅供給公社、日本エレベータ協会大手5社が管理するものと比較して約20倍から90倍と極めて高く、事故後も同様の不具合が短期間のうちに発生していた点に着目。これを踏まえ、「(建築物の)所有者や管理者、保守管理業者による不具合への対応が極めて不十分であったことが考えられる」と指摘した。
事故を受けて国交省が講じた再発防止対策も検証。定期検査・報告制度の見直しや保守点検マニュアルの提出義務付け、戸開走行保護装置の設置義務付けについては一定の効果を認めた。その上で、▽事故機と同種の構造を持つエレベーターの安全確保▽製造者による保守点検の技術情報やリスク情報の開示▽技術力向上のための製造者と保守管理業者の協力体制の構築▽既設エレベーターへの戸開走行保護装置の設置促進―などに取り組むよう求めた。
提供:建通新聞社