国土交通省は、技能者に支払われた賃金と労働時間、下請け業者に支払われた労務費を把握する取り組みを2025年度に直轄工事で試行する。発注者が指定した工事を対象として、受注者が希望した場合にのみ実施する。元請けが選んだ工種の施工に携わった技能者が対象。3月7日に開いた、発注者責任を果たすための今後の建設生産・管理システムのあり方に関する懇談会で提示した。
品確法の運用指針では公共発注者に対し、受注者の協力の下で、下請け業者への賃金支払いや適正な労働時間確保の実態を把握する努力義務を設けている。試行工事を通じて技能者賃金を可視化し、賃金ダンピングの抑制と技術の高さを競うような健全な競争環境の実現を目指す。
試行工事では、受注者が選んだ工種の技能者を対象に、①施工期間中に支払われた賃金の総額②期間中に他の工事現場も含めて働いた総労働時間③対象工事での作業時間④技能者を雇用している企業に支払った労務費―を調べる。①②は技能者の雇用主である下請けから発注者に直接提出し、③④は元請けが発注者に提出する=図参照。
下請けが提出する資料については、試行する直轄工事に携わった技能者全員に支払った賃金、労働時間の合計額を提出する。試行対象の直轄工事に限らず、民間工事を含めて技能者が働いた時間を、賃金台帳をベースに集計。個人を特定できないようにし、プライバシーに配慮する。元請けを介さず発注者に直接提出する形にすることで、技能者の引き抜きなどへの不安をなくし、下請け側の抵抗感を軽減したい考え。
元請けがまとめ、発注者に提出する労働時間は、試行対象の直轄工事で技能者が作業に携わった時間を集計する。出退勤データや出面表、KY表、工事日報入力システムなどを利用することを想定。技能者ごとに、どれだけの時間をかけ、どのような作業に携わったかを明らかにする。
元請けがまとめ、発注者に提出する労務費については、元下間の注文書・見積書により把握する。元請けが下請けに支払った労務費と、技能者の試行工事での作業時間を突き合わせれば、労務費が適切に行き渡っているかを調べる参考となる。材工分離でない場合は、契約金額・支払い金額の提出も可能とする。
技能者の賃金と労働時間、直轄での作業時間と労務費を把握することで、建設工事の生産性の高低を可視化する狙いがある。予定価格以下でなくては受注できない公共工事において、労務費のダンピングを抑制し、技術力による生産性を競う競争環境の整備につなげる。
提供:建通新聞社