国土交通省は、改正建設業法に基づく適正な労務費・賃金支払いの実効性を確保するため、建設Gメンによる指導に加えて、建設業団体が通報の受け付けや状況確認を自主的に行い、官民で商慣行を適正化する体制整備を検討する。2月26日に開いた中央建設業審議会の労務費基準に関するワーキンググループで議論のたたき台として提示した。標準約款を改正し、受注者が労務費支払いを契約上で担保する「コミットメント」を盛り込む方針も示した。
改正建設業法では、技能者賃金の原資となる労務費に基準を設け、著しく低い見積もりを禁止すると規定した。26日の会議では、工事契約で労務費が適切に支払われるとともに、技能者が適正な賃金を受け取れるように担保する体制を議論した。
改正法の実効性確保を巡ってはこれまで、通報や相談を受けて技能者の処遇確保の努力義務違反や、価格ダンピング規制への違反を調べる建設Gメンの役割が注目を集めてきた。今回、国交省は民間側にも一定の役割を担ってもらう将来像を提案。建設Gメンは業界全体のダンピング受注の防止に力点を置くのに対し、建設業団体には主に個々の企業における労働者の処遇確保、労務費の流用防止などに取り組んでもらうイメージを示し、意見を求めた。
具体的には、建設業団体が技能者からの賃金支払いに関する通報・相談を受け付けることを想定。さらに、発注者、元請けから寄せられた情報を基に、▽技能者を雇用する事業者に対して賃金支払い状況の開示要求▽下請けと契約している注文者に対し、下請けへの労務費の支払い状況や下請け契約に関する書面の開示要求▽賃金支払いに問題がある事業者への適正化指導―を行う。必要に応じ、建設Gメンに情報提供する。
寄せられた情報は建設Gメンや都道府県の許可部局で共有し、特に悪質な事案を指導。官民で改正法を踏まえた商慣行を実現するとした。
発注者が支払った労務費が重層下請け構造の中で技能者までどのように支払われるか把握できるシステムの活用も視野に入れる。ただ、直轄工事を対象とした試行調査では、賃金台帳や作業員名簿の様式、記載内容が多様で、円滑なデータ抽出にはさらなる検討を要するとした。
■標準約款に「適正支払い」条項
個々の工事契約の当事者についても、適正な労務費・賃金支払いを推進するための仕組みを作る。国交省は、公共工事と民間工事、元下契約で用いる標準請負契約約款を改正し、注文者から確保した労務費を受注者が下請け、技能者に支払うことを担保する「コミットメント」条項を盛り込むとの方向性を示した。任意で選択できる条項とし、義務化までは踏み込まなかった。
コミットメントでは、▽直用する技能者への適正な賃金支払い▽直接契約する下請けへの適正な労務費支払い▽注文者の求めに応じた支払い実績の開示―を規定することを提案。必要に応じて、下請け契約でもコミットメントを導入することを契約事項とし、重層下請け構造の中で契約当事者同士が適正な支払いを担保できるようにする。
「適正賃金」の水準は、国交省が公表したCCUSレベル別年収を念頭に置く。コミットメント違反へのペナルティーは規定しない一方で、不適正な賃金支払いの疑いがある場合は建設Gメンによる調査・指導の端緒情報として活用する。
提供:建通新聞社