2025年が幕を開けた。団塊世代が全て75歳以上となる”超高齢社会”の到来を告げる年だ。人口減少による将来的な担い手不足に対し、吉岡幹夫国土交通事務次官は「1人ひとりの生産性を向上させる」ことの重要性を強調する。打開策は、昨年に技監として打ち出した「i−Construction2・0」だ。「新しい働き方ができる建設現場を作っていきたい」と話す吉岡氏に、今年の展望を聞いた。
―昨年は能登半島地震が甚大な被害をもたらす、衝撃的な幕開けとなりました。今後の大規模災害に、インフラ分野ではいかに備えるべきでしょうか。
「昨年は1月に能登半島地震、9月に大雨が同地域を襲った。1日も早く復旧、復興できるよう、国交省として全力を挙げる」
「地震の後に大雨が降るような、複合的な災害にも備える必要があると改めて感じた。常にインフラが機能を発揮できるよう、メンテナンスを含めてしっかり取り組まなくてはならない」
■能登半島地震の課題踏まえ防災対策
「24年度補正予算には『防災・減災、国土強靱(きょうじん)化に向けた5か年加速化対策』の最終年度分が盛り込まれた。その先を見据えた国土強靱化実施中期計画を早期に策定し、安定的・継続的に災害対策を進めていく必要がある」
「水道の耐震化をはじめ、能登半島地震で明らかになった課題にも当然、取り組まなくてはならない。資機材の高騰も考慮する必要がある。これらの課題に対応する『緊急対応枠』『緊急防災枠』も活用し、必要な事業規模を確保していかなければならない」
―能登半島地震では、住宅にも大きな被害が出ました。
「耐震化率の低い地域で被害が大きくなった。耐震改修を一層促進していくことが大事だ。昨年8月には木造住宅の安全確保方策のマニュアルを公表した。補正予算も活用して地方自治体の負担を軽減しながら、耐震化を促進していく」
■建設業を若者に選ばれる産業に
―昨年、技能者の処遇改善や価格転嫁の円滑化を柱とした第3次担い手3法が成立しました。円滑な施行に向けた考え方をお聞かせください。
「能登半島地震への対応では、地域の守り手である建設業に携わる人こそが大事だと改めて実感した。”給料、休暇、希望、かっこいい”の『新4K』を実現し、若者に選ばれる産業にしなくてはならない」
「改正建設業法では、技能者に賃金の原資となる労務費が行き渡るよう、労務費の基準の作成を打ち出した。中央建設業審議会のワーキンググループで、業界の意見も聞きながら議論していく」
「資機材の高騰も、労務費にしわ寄せがいってしまうことのないよう、必要に応じて価格転嫁できなくてはならない。受発注者での協議円滑化ルールは昨年に施行されたところだ。ガイドラインを整備したので、自治体や民間発注者にも共有し、周知する。ぜひ、建設業界にも足並みをそろえて取り組んでほしい」
■地域建設業の維持は発注者の責務
―直轄工事の発注者の立場から、改正品確法にはどう対応しますか。
「地域の建設産業をきちんと維持していくため、地域ごとの実情を踏まえながら入札参加条件や発注規模を定めることが、発注者の責務として今回、はっきり規定された。これまで以上にしっかり地域の建設業の受注機会を確保していきたい。直轄工事だけでなく、自治体に対しても様々な機会を捉えて対応を要請する」
「新技術やCO2の排出量削減などを踏まえ、総合的に最も価値ある資材、機械、工法を選ぶことも位置付けられた。必要な費用を含めて予定価格を設定する」
「例えば建設現場の脱炭素の取り組みでも、すぐできる工夫から非常に高度なものまである。国交省として事例を作り、自治体にも声かけをして広めていきたい」
■CCUS、利用者にメリット実感を
―建設キャリアアップシステム(CCUS)の技能者登録数が昨年、150万人を突破しました。
「技能者の処遇改善、業務の効率化のため、CCUS活用の取り組みを一層進めていく必要があると考えている。24年度からの3年間をメリット拡大フェーズと位置付け、利用拡大に向けた3カ年計画を決めた」
「経験、技能に応じた処遇の改善へ、CCUSの技能レベルに応じた手当の支給、評価制度の拡大に取り組む。事務作業の効率化へ、システムの登録情報と安全書類や建設業退職金共済制度との連携といった施策も掲げた。利用者にメリットをきちんと示し、実感してもらう」
■i−Con2・0の事例、実地に示す
―i−Construction2・0により、現場はどのように変わるのでしょうか。
「人口減少が中長期で続くことは間違いない。災害が頻発化・激甚化し、老朽化も進む中で、今までと同じやり方ではインフラの機能を保つことはできない。抜本的な省人化が必要だ」
「これまでより少ない人数で従来以上のパフォーマンスを出せるよう、i−Con2・0では40年までに少なくとも省人化3割という目標を打ち出した」
「設計、施工、維持管理の各段階でデータをきちんと引き継ぎ、自動化やペーパーレス化、リモート化を進める。安全は大前提だが、例えばリモート活用で現場に縛られないような働き方を作っていきたい。大規模な現場で具体化し、それを裾野にまで浸透させることが大事だ」
「昨年はまず、省人化の概念を打ち出したので、その事例を実地に示していくのが今年のテーマになると期待している。建設業だけでなく、他の分野の能力も借りながら進めることになるものと思う。ぜひ、建設業がDX化の最も進んだ業界になってほしい」
提供:建通新聞社