持続可能な建設業の実現へ、基本問題小委員会が提言した賃金の行き渡り施策に関して、建設業団体の団体長らが期待と懸念を示した。日本建設業連合会の宮本洋一会長は10月3日に開かれた中央建設業審議会(中建審)の総会に委員として出席。労務費の相場観を示す「標準労務費」を中建審が作成・勧告したり、受注者における不当に低い請負代金を禁止することについて、大変画期的な取り組みと評価。一方で、全国建設業協会の奥村太加典会長は、「労務費を原資とした廉売行為の規制は実効性に懸念がある」とした。
提言では、標準労務費を中建審が作成・勧告すべきとした。標準労務費は、請負契約での労務費の相場観を示すとともに、労務費を原資とした不当な価格競争(廉売行為)を規制する際の参考指標として用いることを想定する。併せて、建設工事の標準約款に、適正な賃金支払いへのコミットメント(表明保証)や賃金開示への合意に関する条項を追加し、技能者へのより確実な賃金の支払いを実現する。
さらに、標準労務費を下回るような労務費を計上した、受注者による不当に低い請負代金での契約を禁止し、違反事業者に警告や注意・勧告できるようにもする。
標準労務費について宮本委員は、「見積もりの中で標準的な労務費が明示されることで、より技能者の処遇改善が進む」と期待を寄せた。その上で「標準労務費の具体的な検討の際には、業界の意見を十分に勘案してほしい」と付け加えた。
廉売行為の規制については、奥村委員が「労務費を原資とする廉売行為に警告、注意や勧告するとしているが、 労務費はあくまで総価一式契約の内数であり、具体的にどうやって確認を行うのか。実効性が懸念される」とした。また、「提言には記載されていないが、今後、契約の際に労務費や資材費といった内訳を全て晒(さら)すことを義務付けるという趣旨であれば、発注者から経費ダンピングを強要される恐れがあり、特に中小企業にとっては非常に抵抗がある」と不安を示した。
建設業専門団体連合会会長の岩田正吾委員は、標準労務費を廉売行為の規制の参考指標として用いる取り組みに期待。具体化に当たっては、「下請けから技能者への賃金の行き渡りに向けて、専門工事業としては、賃金台帳ぐらい出してもいいと腹をくくっている。その代わり、仕事の繁閑にかかわることなく、元請けから下請けに、技能者の賃金の原資となる労務費をしっかり流してほしい」と訴えた。
中建審の総会では、国土交通省が基本問題小委員会の提言がまとまったことを委員らに報告し、意見を交わした。提言以外では、工期の設定や見積もりに当たり、発注者と受注者が考慮すべき事項を記載している「工期に関する基準」の見直しの必要性を指摘する意見が上がった。これに対して奥村委員は「見直すのであれば、工期設定で配慮すべき自然要因として、猛暑による不稼働を追記してほしい」とした。
提供:建通新聞社