2023/09/26
建設トップランナーフォーラム「#戦略的広報のすゝめ」H
大高建設(富山県黒部市、大橋聡司社長)は、インターネット上の仮想空間「メタバース」を構築し、実際の建設現場を案内することで、学生らに建設界への理解を深めてもらう機会にしている。同社総務部係長の山本健太郎氏が「ワクワクを次世代へ メタバースで描く建設のミライ」と題し、その経緯や特長などを紹介した。
きっかけは、採用担当者である自身が訪れた砂防堰堤の工事現場で、その迫力に魅了されたこと。「まず実現したかったのは、この砂防堰堤を見上げる景色。『こんなに大きいんだよ』とたくさんの人に伝えたかった。実際に現地へ行かないと感じ取れないインスピレーションがある。何か良い方法がないかと考えた結果が『メタバース』だった」と振り返る。
IT企業のAWSの協力のもと、メタバースを構築。最初の合同企業説明会では「全国の学生とアバターで交流できて、とても楽しかった」と手応えを実感。さらには観光業からヒントを得て、ダムや橋、港などインフラ施設を観光するインフラツーリズムをメタバース化。現場見学の選択肢にメタバースを取り入れ、行くことさえ困難な黒部の砂防現場に招待するという、新たなインフラツーリズムを実現した。
同社のメタバースではセグウェイに乗って、3つの土木構造物を見に行くことが可能だ。タイヤショベルの操縦もでき、現場にいるかのような体験ができる。楽しみながら砂防堰堤の知見を深めることができ「まさに現場見学のDX化の成功例」と胸を張る。
これまでに東京の専門学校生を現場見学に招待した。黒部奥山にある砂防堰堤の工事現場は、同社から工事現場までトロッコ電車などで乗り継ぎ片道2時間、冬季は積雪で行けない場所。東京からだと直線距離250`、1泊2日の行程を必要とするが、メタバースでトータル2時間に短縮、年間通して現場見学できる。「東京にいても、障害者であっても、誰一人取り残さず全世代に対応させられる」と、その優位性を強調する。
体験した専門学校生からは好評で、地元・富山大学の学生とも連携していく中で「これは次世代のキャリア形成・教育にも寄与する」と自信を深めた。さらにメタバースは「子どもの想像力を育む場も提供でき、新たな社会貢献にもつがなる」と見ている。
地方の建設業は担い手不足が深刻だ。こうした中でも「情報という切り札は今後伸びていき、人々の心に刺さるもの」と捉え、まだまだ可能性のある分野と指摘。メタバースを通して「ワクワク≠次世代に見せていくことが建設業ならびにさまざまな業種が今後推し進めていく上で一番重要なポイントではないか」と提言する。
(地方建設専門紙の会・北陸工業新聞社)