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2022/01/01

山田事務次官 建設産業の魅力向上に新4K

2022年が幕を開けた―。昨年を振り返れば、またも各地で大雨による被害が相次いだ。頻発・激甚化する自然災害により多くの人命も奪われ続けている。一方で、建設業の担い手確保や働き方改革、インフラ分野のDXなどさまざまな課題を抱える国土交通行政。国土交通省の山田邦博事務次官は、就任直後に発生した熱海の土石流災害を目の当たりにし、「国民の安全・安心の確保」の大切さをあらためて認識したと言う。通常国会が間もなく開会し、新年度の当初予算と関連法案の審議が始まる。国土交通行政の新年を展望してもらうとともに、果たすべき役割は何かを聞いた。
 
―新年度当初予算と一体で編成することが多い補正予算ですが、21年度補正予算は昨年12月に成立しました。

 「21年度補正予算は経済対策として非常に重要なものだ。国土強靱(きょうじん)化や成長戦略などの必要な予算を認めてもらい、大型の補正予算となった。国民の安全・安心を確保し、コロナ禍にも打ち勝ち、地域も活性化できるよう、早期執行と適切な予算管理に努めていく」

◇国民の安全・安心の確保が最優先

―国土交通行政にとって2021年はどのような1年でしたか。

 「昨年もさまざまなことがあったが、『国民の安全・安心の確保』が最優先の課題だった。自然災害は頻発化、激甚化し、‶凶暴化≠オていると言ってもおかしくない。そこで『防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策』として、53の施策を重点的かつ集中的に始めた。流域治水関連法も成立した。熱海の土石流災害をきっかけに、関係省庁と盛土の総点検を実施しており、危険箇所への対応や土地の利用規制など、安全性を確保するために必要な対応策を検討してきた。千葉県八街市での事故を受けて通学路での交通安全対策も進めた」

―頻発化・激甚化している自然災害にどのように備えていきますか。

 「昨年事務次官に就任し、その直後に大雨で甚大な被害が生じた。自然災害が激甚化、頻発化している中で、国土強靱化の重要性を再認識した。5か年加速化対策を活用し、予防保全型のインフラメンテナンス、各施策を効率的にするためのデジタル化も含め、必要な予算をしっかり確保して、戦略的かつ計画的な社会資本整備を推進していかなければならない」

◇災害時に存在感増す建設業

―その社会資本整備を支えているのが建設業です。しかし、担い手不足は深刻さを増し、次代を担う若手技能者の確保は最優先課題です。どのように対応していくべきでしょうか。

 「建設業は社会資本整備の担い手で、地域の守り手だ。災害時には特に存在感を増す。国民の生活と社会経済を支える重要な役割を果たしている。その中で、建設業は他産業よりも高齢化が進んでおり、近い将来、高齢者が大量離職し、さらに担い手が減少することが見込まれる」
 「担い手確保には処遇改善が必要だ。技能者の賃金上昇につなげるため、公共工事設計労務単価を9年連続で引き上げた。社会保険への加入指導も徹底してきた。新・担い手3法に基づく工期の適正化や施工時期の平準化、技術者配置の合理化なども進めている。働き方改革も必要だ」
 「さらに担い手確保に必要な適正利潤を確保するためには、ダンピング対策も重要になる。建設業が新3K(給料が良い、休暇が取れる、希望が持てる)を実現できるように、官民が連携し、担い手確保の取り組みを進めていきたい」

◇CCUS 賃金上昇への好循環を構築
 
―技能者の処遇改善に向け、建設キャリアアップシステム(CCUS)の役割が大きくなってきました。現状と今後の展開をどのように考えていますか。

 「CCUSを活用することで、技能者の技能と経験に応じた賃金が支払われるようになる他、若い世代にはキャリアパスの見通しを示すことができる。19年4月に本格運用を開始し、昨年、登録技能者数が70万人を超えた。一方、カードを取得しても現場にカードリーダーがなく就業履歴が蓄積できないという声も聞く」
 「今後は登録者の増加と合わせて現場利用を促進して、現場の技能者にメリットを実感してもらうことが大切だ。経営事項審査でCCUSに取り組む企業を加点評価するとか、CCUSの活用などで人材育成に取り組む企業の顕彰制度を創設することを検討したい。公共工事で人材育成に力を入れる企業が有利になるようなインセンティブの導入も進める」
 「また、技能者のメリットを考えると、技能者のレベル評価を賃金につなげる環境作りも必要だ。下請けが適正な労務費や法定福利費を見積もり、それを元請けが尊重する。元下間の適正な請負価格を通じて技能者の賃金上昇につなげる。それが実勢単価として現れてくれば、労務単価が上昇して、また実勢価格に反映されていく。こうした好循環を作り上げていかなければならない」

―気候変動や脱炭素、人口減少、デジタル化などにより社会構造は大きく変化しています。

 「脱炭素では2050年カーボンニュートラルの実現に取り組んでいく。具体的な施策を盛り込んだ『国土交通グリーンチャレンジ』も昨年7月にまとまった。少子高齢化では担い手の確保や生産性の向上を進める。デジタル化ではインフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を全省挙げて推進する。この他、住宅・建築物の省エネ対策(ZEB、ZEHなど)、カーボンニュートラルポート形成、バリアフリー化の推進、コンパクトでゆとりとにぎわいのあるまち創りなどにも取り組んでいく」


◇DX 業界の文化・風土を変革

―国土交通行政とインフラ分野をデジタル化でどのように変えていきますか。

 「DXは単なるIT化ではない。業務や組織、プロセス、あるいは建設業、国交省を超えた文化・風土、そして働き方改革までを含め、社会資本と公共サービスを変革しなければならない。作業の効率化のためのデジタル化ではなく、ツールとして用い、インフラの機能の維持・向上を通じて人々の暮らしや経済を支えていく。具体的には、現場作業の自動化・自律化、手続きのワンストップ化、3D図面を活用した地元説明などに取り組む」
「例えば現場を自動化し、炎天下にクーラーの効いた部屋で遠隔化した重機を操作する。当然、生産性も上がる。若者が『かっこいい』と建設業に魅力を感じるかもしれない。インフラ分野のDX推進に併せて、新3Kに『かっこいい』を加え、新4Kとして建設業の魅力を高めていくことを考えてもいいのではないか。『かっこいい』は見た目だけではなく、自分のやりたいことが実現できる、ということでもある。つまり給料も良く、はたから見てもいきいきと働いている。建設業が新4Kに少しでも近づく1年にしたい」

提供:建通新聞社