静岡県熱海市で発生した土石流被害を受け、盛土の安全性に注目が集まっている。土石流と発生地付近の盛土との関連性は、静岡県と熱海市が引き続き調査しているが、赤羽一嘉国土交通相はすでに全国の盛土を総点検する意向を示している。宅地造成等規制法により、宅地盛土の施工には厳しい規制があるが、今回のように建設発生土を運び込む盛土には、一部の地方自治体のいわゆる残土条例≠ノよる規制があるだけだ。専門家は「全国一律の法律をつくり、施工計画に審査の目が行き届く仕組みを整えるべきだ」と話している。
熱海市伊豆山地区の盛土について、静岡県は、県の土採取等条例などに違反するような不適切なな行為があったことや、手続き違反により、指導を行っていたことを明らかにした。一方、技術基準への適合が必要だとはいえ、条例で求めているのは工事着手前の届け出で、許可は必要ない。
建設発生土が搬出され、山間部の谷地の埋め立てなどに使用されると、土砂の流出や崩壊などを引き起こす恐れがある。残土が廃棄物でなければ廃棄物処理法の対象ではなく、汚染されていない土であれば土壌汚染対策法の対象にもならない。宅地や森林でなければ、宅地等規制法や森林法の規制も及ばない。
現行法で対応しきれない建設発生土の埋め立てや採取に対しては、残土条例によって届け出などを求めている自治体がある。地方自治研究機構の調べによると、土砂埋め立ての規制に関する規定をおいている、いわゆる残土条例を制定している都道府県は21府県(20年4月末時点)。静岡県の条例は、土砂の埋め立てだけでなく、採取も対象としている。
条例のある地域で、残土の埋め立てや採取、地形改変などを行う事業者は、自治体に届け出を求められるが、地盤工学が専門の群馬大学大学院の若井明彦教授は「審査が形骸化していたり、チェックが行き届かないケースもある」と問題視。「条例を整備していない自治体もあり、国が旗振り役となった全国一律の規制をかける必要があるのではないか」と話す。
残土の埋め立てと異なり、宅地盛土には、宅地造成等規制法によって都道府県知事の許可が求められる。たび重なる地震による滑動崩落を受け、厳格な技術基準も整えられており、高い安全性が確保されているという。盛土面積3000平方b以上などの要件を超える大規模な宅地盛土では、安全性を確認すべき盛土を示した「大規模盛土造成地マップ」の作成も全国で完了している。
気候変動の影響で全国で記録的な降雨が相次ぎ、水害によるリスクが高まっている。若井教授は「法律の網に残土を追加することで、宅地のようなPDCAを回す枠組みを整え、安全性を確保すべきだ」と話している。
提供:建通新聞社