東京都は2023年度以降、あらゆる危機に対応するための「TOKYO強靱(きょうじん)化プロジェクト」に基づいた施策を展開する。40年代までに15兆円規模の事業費を投じて、豪雨災害や大規模地震、火山噴火、未知の感染症に対するまちづくりを進める。風水害への対策では調節池の整備をはじめとしたこれまでの取り組みを強化・拡充するとともに、盛土による被害の防止に向けたトライアル事業を多摩地域でスタートする。また、火山噴火から都市活動を守るため、長沢浄水場にある沈殿池の覆蓋(ふくがい)化などを実施。地震対策では木造住宅密集地域の安全性を高める支援策を手厚くする方針だ。
土砂災害を巡っては、静岡県熱海市の土石流災害を踏まえて成立した盛土規制法で、都道府県知事などが規制区域を指定することになった。都では24年度をめどに規制区域を公示するため、基礎調査などを実施している段階だ。
一方で、不適正な盛土は山間部など人目に付きにくい場所で行われる傾向にあり、パトロールなどによる調査と監視には限界があるという。
そこで、人工衛星による観測データなどが活用できるかどうかトライアル事業で検討する。観測時期の異なるデータを解析して地形が改変された箇所を抽出し、その結果を基に現地確認などで不適正な盛土を特定する体制を構築していく。
火山対策では、水道施設を降灰から守るため、浄水場の更新に併せて順次、浄水処理施設を屋内化していく方針。ただ、このうち長沢浄水場は更新までに長期間を要することに加えて降灰時に水質基準を超過するリスクがあるため、既存の沈殿池をシート型のふたで覆う。
地震への備えに対しては、老朽化した建築物の除却や建て替えに必要な設計・監理費の助成を重点整備地域以外の整備地域でもスタート。重点整備地域では不燃化特区制度に建築工事費の助成を追加して、木造住宅密集地域の安全性向上を後押しする。
これらの施策を含めて、40年代までに目指す東京の姿と、それを実現するための取り組みを「TOKYO強靱(きょうじん)化プロジェクト」に盛り込んだ。プロジェクトの中でも、先導的かつ特徴的な取り組みを「リーディング事業」に位置付けている。
リーディング事業のうち、ハード面の施策と主な取り組み内容は次の通り。
【風水害】河川整備(護岸や調節地等)のさらなる推進―調節池150万立方bの新規事業化を前倒し
▽防潮堤・河川堤防の嵩上げ―高さが不足する前に優先順位を決めて段階的に実施
▽地下鉄の浸水対策―地下鉄出入り口への止水版と通風口への浸水防止機などの設置・強化、トンネル内防水ゲートの整備
▽都市基盤としての高台まちづくり・高規格堤防の整備促進―公園など公共施設を活用した高台の確保と、新たな手法の導入に向けた国との連携
▽衛星データを活用した不適正盛土の検知―23年度に多摩地域でトライアル事業を実施
【地震】広域防災拠点へのアクセスルートとなる道路等の事業推進(立川広域防災基地・東京湾臨海部基幹的広域防災拠点〈有明の丘地区〉)―首都高速晴海線延伸部の早期事業化に向けた国との連携、環状第3号線(勝どき〜芝公園)の早期整備
▽重点整備地域を含む整備地域全体への支援―不燃化特区制度に建築工事費助成を追加、重点整備地域以外の整備地域への設計・監理費助成の創設
▽私道等における無電柱化の制度構築と費用助成―重点整備地域に加え、整備地域と防災再開発促進区域も補助対象に拡大
▽新耐震基準の中で築年数の古い木造住宅へ耐震化支援の拡充―「2000年基準」を満たさない約20万戸を対象とした支援をスタート
▽災害時に生活継続しやすいLCP住宅の普及・中高層住宅の自立電源確保促進・マンション防災の充実強化(エレベーターの早期復旧)―都市開発諸制度などの活用による新築中高層住宅への非常用発電設備の設置促進、復旧作業を担うメーカーとの連携強化
▽復興小公園の再生―関東大震災から100年を契機に関連区による再生を後押し
【火山】水道施設の降灰対策の推進―長沢浄水場の沈殿池を覆蓋(ふくがい)化
▽日常生活など都市活動の早期再開に向けた迅速な降灰除去(仮置き場の確保など)―降灰の仮置き場、収集・運搬方法に関する調査検討を踏まえて関係機関との役割分担やステップを整理
▽噴火災害に対応した船客待合所や駐車場の整備―三宅島の火口から3`圏内に位置する船客待合所について、噴石の落下を考慮した仕様の屋根・駐車場を持つ施設に更新
【電力通信】水素社会実現プロジェクト―グリーン水素のあらゆる分野での本格活用
▽地産地消型省エネ増強プロジェクト―区市町村と民間事業者へ太陽光発電や蓄電池の導入を支援
▽衛星通信の活用―多摩山間・島しょ地域、海上船舶などで通信衛星を活用した通信伝送経路を確保
【まちづくり】人が憩い、楽しく歩けるウォーカブルな都市空間の創出(西新宿地区)―4号街路や都民広場をはじめとした道路と公開空地の一体的な再編など
▽歩行者中心の公共的空間としてのKK線の再生―周辺のまちづくりと連携した段階的整備による一部区間の早期開通と30〜40年代の全区間整備完了
▽隅田川等におけるゆとりと憩いにあふれる水辺空間の整備―下流域の取り組みを上流域へも展開
▽船を活用した交通手段の多様化―ベイエリアでの船着き場整備、日常的な交通手段としての航路の実装に向けた検討・支援
▽既存ビルのリノベーション(機能更新)によるまちづくりの促進―リノベーション促進地区を指定して建物の機能更新を支援する仕組みの構築、神田地区などを先行地区に選定
提供:建通新聞社