県が試行を進めるICT活用工事の実施件数が伸び悩んでいる。2019年度も低調感が続き、施工エリアの偏りが目立つ状況。「必要性は理解しているが…」との声に、先が見えない状況下での設備投資や人材育成などの不安が垣間見える。
(田原謙一・常務取締役(兼)報道部長)
県がまとめたICT活用工事の実績(20年1月末時点)によると、16年度に土木部で初めて対象工事が発注されて以降、施工実績はわずか33件。試行が本格化した18年度の14件に対し、19年度も大幅な伸びは見えない。
発注機関別(振興局・支庁)でも偏りが目立つ。33件のうち半数以上の18件を北薩管内の工事が占め、ほか姶良・伊佐7件、大島4件、大隅2件、鹿児島と南薩が1件。北薩は広瀬道路の道路改築での実績が数字を引き上げたとみられる。
県では現在、土工量1000m3以上かつ予定価格3000万円以上の工事(災害復旧除く)を対象に、受注者希望型で試行している。実施した現場は工事成績評定の創意工夫で加点されるが、現状を見る限り、評価を受ける企業は一定数にとどまっている状況だ。
「必要性は理解しているが…」。こうした声の裏側には今もなお、設備投資に踏み切れない現状や技術者不足で教育が追いつかない実情がある。
■有用性理解も「リスク負えぬ」
「地域建設業が手掛ける中小規模の現場では(導入の)メリットを感じない」。
「初期投資が経営を圧迫しないか心配。補助金もまだまだ手厚くしてもらわないと…」。
業界団体が行ったICT活用のアンケート調査では、こうした声が目立つ。現場の生産性を上げるために有用なことは分かっていても、社運をかけた投資≠行うほどのリスクは負いたくないという本音が見える。
ただ、ICT導入に先陣を切って取り組んだ県内業界の経営者からはこんな見方もある。
「厳しい声があるのは理解できるが、県内で導入できる(体力を有する)企業はまだあるはず。今は様子見している感が強い」。
その背景には、コロナ禍で先の見通しが立てづらい中での不安がある。立ちはだかるのは、経費だけでなく、時間や人材育成という壁。「ICTに取り組むには一定の教育期間が必要になる。今は限られた人員で目の前の仕事をやり遂げるのが最優先」との声もうなずける。
県は20年度から、週休2日と併せてICT活用工事の証明書発行を開始した。国の動きを考えると、これから先、対象工種の拡大はもとより、総合評価方式のインセンティブとなる可能性も十分ある。
生産性向上と経営維持の狭間で、県内業界は今後どうICT施工に踏み込んでいくか。「これから入職する若者に興味を持ってもらうためにも必要なこと」とは理解しているものの、特に小規模工事を担う企業では費用対効果を見いだせないのが現実。普及拡大への道はまだまだ険しそうだ。