今年度、滋賀県土木交通部長に就任した吉田秀範氏に、県土木行政について話を伺った(コロナ感染症に配慮し、文書によるインタビュー)。
―どのような県土を築いていかれますか。また、どのように組織運営を考えておられますか
吉田部長(以下、部長) 滋賀県に来て、7月で2年になります。琵琶湖の雄大な景色と湖岸に集う人たちを眺める機会も多く、豊かな自然と深い歴史を持つ滋賀の魅力を日々感じています。また、滋賀県は他県と比べて自動車が日々の生活に欠かせないところだと思います。街中で渋滞を目にする度に、道路インフラ整備の遅れと必要性を実感します。4月から土木交通部長を拝命し、改めて県民の皆さんの生命と財産を守るため、防災・減災対策を進め、社会の安定、維持と地域経済の活性化のため、様々な事業を着実に進めていきたいと決意を新たにしているところです。
近年、県の土木公共事業費は、厳しい財政状況の中「防災・減災、国土強靱化のための3ヵ年緊急対策」関連予算など着実に伸びています。令和2年度は、昨年度末の補正と今年度当初を合わせ、約800億円規模の予算執行を予定しており、計画的かつ切れ目のない事業発注に努め、円滑に執行していく所存です。
私たちは、人口減少、急激な高齢化、第4次産業革命と呼ばれる技術革新といった大きな社会の変化に加え、近年の気候変動による災害の局地化、激甚化など自然環境の変化に直面しています。さらに今年は新型コロナウイルス感染症が拡大し、県の職員にはこうしたこれまで経験した事の無い様々な課題に、柔軟かつ的確に対応する能力が一層必要になってきていると強く感じます。
そのためには、何よりも職員一人一人の意識改革が求められます。仕事の中での学びを次の課題解決に応用できる人材を育て、組織力を高めて、安全・安心で活力ある県土づくりを着実に進めていきたいと考えています。
―予算執行および入札制度改革については
部長 現在、県では事業を円滑に執行していくため入札制度改革に取り組んでいます。昨年度から、総合評価方式における一括審査方式の試行、格付けごとの請負標準金額の措置、また土木一式2号による共同企業体による入札などの取組を始めました。今年度より、企業と技術者の両方に実績を求めてきた入札参加資格要件を、企業実績のみとし、入札参加機会の拡大を図ることや、総合評価方式で企業と配置予定技術者の評価を分割するとともに、配点を見直すことで技術者不足への対応を試行していきます。
また、平成31年4月の労働基準法の改正以降、働き方改革に向けた取組として、受注者の負担軽減に取り組んでいます。昨年10月に運用開始した工事管理情報システムは電子検査に対応しており、電子と紙の二重提出を解消するため、原則電子検査を行うよう電子納品運用ガイドラインを改訂したところです。今年度は、さらに受注者の書類作成が効率的に行えるよう「土木工事書類作成マニュアル」の整備を進めるほか、監督職員が事務所内から遠隔現場支援技術を使用したリアルタイム映像と音声による段階確認の試行を検討しています。
今後も、業界の皆さんとの意見交換を行いながら、入札制度の改革、受注者の負担軽減と働きやすい環境の整備に一層努めてまいります。
―今年度に所管する案件で大型工事はございますか
部長 道路関係では、国道1号のバイパス的機能を有する山手幹線において、橋梁下部工の整備を進め、今年度から一部高架橋の上部工工事にも着手する予定です。また、愛知川を渡河する神郷彦根線では、橋梁下部工事に着手予定です。
河川関係では、真野川に架かる高島大津線の橋梁の上下部工事、金勝川の県道六地蔵草津線までの河道掘削工事(切下げ工事)、山賀川や姉川・高時川では大規模特定河川事業として護岸工事の発注を予定しています。
建築関係では、国内外に向けた窯業技術の研究開発・人材育成・交流発展拠点として、陶芸の森の隣接地に計画された信楽窯業技術試験場の新築工事を予定しています。
―建設業活性化については
部長 建設業従事者数が減少するなか、建設業が将来にわたり「地域の守り手」として活躍し続けるため、担い手の確保・育成は急務と考えています。
昨年度は、業界を代表して滋賀県建設業協会が「リクルートキャラバン」を結成されました。県でも、学生・生徒への「滋賀県の魅力」「建設業のやりがい」のPRや、意見交換などの活動を業界と連携して取り組み、滋賀県教育委員会の協力も得ながらバックアップし、担い手の確保に努めていきたいと考えています。
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吉田秀範氏略歴 1994年3月京都大学大学院卒、1994年4月国土交通省採用の後、2016年6月国土交通省国土政策局広域地方政策課調整室長、国土交通省技術政策総合研究所高度道路交通システム研究室長、 2018年7月滋賀県土木交通部技監、2020年4月から滋賀県土木交通部長。
提供:滋賀産業新聞