京都市都市計画局は12日、公募型プロポーザルの「京都市市有建築物耐震診断業務委託ただし、名勝無鄰菴庭園の建造物に係る耐震診断及び概略補強計画策定業務委託」について、日建設計大阪オフィス(大阪市中央区)を受託候補者に選定したと発表した。
プロポ参加は同社1社のみ。同社の評価点は143・0点(200点満点)。8日付で受託候補者に選定した。
明治29年頃に建設された無鄰菴(京都市左京区南禅寺草川町31。敷地3391・09u)は、昭和26年6月に国指定名勝に指定された。主な建物は、▽母屋(W造2階建、延376・85u)▽洋館(レンガ造一部W造2階建、延155・36u)▽茶室(W造平屋建、38・67u)▽管理人棟(W造平屋建、35・04u)。
今回、耐震改修促進法に基づく耐震性に係る概略補強計画や耐久性に係る改修計画を策定する。
委託する業務内容は@耐震診断及び耐久性調査業務A計画策定業務。
履行期間は令和3年3月31日まで。
概算予定価格は2686万円(税抜)。
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日建設計大阪オフィスの技術提案書によると「耐震安全性を確保し、さらに名勝無鄰菴の価値を末永く維持できるよう計画」。主な内容は▽庭園、塀、建造物全てが一体となって創られる魅力を阻害しない、建物の内外の変更を最小限とした補強を提案▽平野部とは異なる地層、水の修景は建造物の不同沈下や多湿による劣化をもたらしている可能性がある。近隣を含めた豊富な設計経験をもとに、不同沈下や多湿にも対策した将来の維持管理がしやすい補強案を提案▽現地調査では3DScanなど最新のデジタル機器による調査などを行い、その後の維持管理にも利用できるよう検討する▽令和の大改修の最初のステップとして業務の概要を魅力的にまとめ、維持管理の意識共有やアピール利用を検討する。
「京都市、文化庁、造園業者との密なコミュニケーションで方向性を定め実現しやすい計画とする」。主な内容は▽適切に定例会議をもち、京都市の意向を確認するとともに、方針を共有して業務を進める▽文化庁と頻繁に交流のあるチームの担当が、タイミングよく文化庁と打ち合わせを行う▽造園業者(施設管理者)とも情報共有を図り、庭園への負担を減らした施工を想定した計画を提案▽Web会議、デジタル機器を活用した新しい取り組みを提案し、COVID19(新型コロナウイルス)への対策を講じる。
「歴史的建物の専門家を主にチームを構成し、次フェーズを見据えたプロジェクト運営で手順工程をリード」。主な内容は▽主任技術者は文化庁認定上級コース修了者が担当し、指導のもと、ヘリテージビジネスラボの文化財マネージャー資格者が中心にプロジェクトを運営し、スタッフがこれをサポートする等。
名勝指定された庭園に配慮するための考え方については、「隠す補強、なじむ補強で建物からの眺めも建物の外観もまもる」。主な内容は▽床下の制振部材補強など、時刻歴解析で検討した補強実績を踏まえ、隠れた位置の補強を提案▽部分的には補強材を隠せない場合も想定されるが、周囲の意匠と違和感のない外観となるよう配慮する▽補強材は可逆性に配慮し、将来の新技術へ変更し易く、創建時からの材の損傷を最小限になるよう計画▽さらに脱着しやすいボルト接合による納まりとし、溶接をなくすことで、火災のリスクを減らす▽時代区分性にも配慮し、今回の補強を明示し、キャプションの展示などで最新の補強技術をアピールする。
「工事中も庭園と近接の景観・環境をまもる」。主な内容は▽大きな重機を持ち込まない人力主体の工事とし、名勝と近隣の景観・環境をまもる▽桟橋状仮設構台を仮設細柱で浮かせて計画し、庭園地盤面への負担を最小とし、植栽の伐採を少なくする計画▽仮設構台により、北西角の仁王門通からの荷取り、敷地内への搬入を容易にし、構台を資材置き場としても活用する▽長物も構台から搬入することができ、1階の建物開口からの搬入の場合のうっかりミスによる建物損傷を防止する▽劣化の激しい管理人棟の解体・復元は、搬入作業合理化や工事ヤード確保上有利であり、案の一つとして検討する▽仮設構台による工事動線と見学導線の分離により、工事箇所以外の一般見学利用を継続できるように計画。
高い文化的価値を後世に伝えるための考え方については、「維持管理の動線を想定した補強を計画」。主な内容は▽屋根裏や床下など、維持管理のための立ち入りがし易いように計画することは、維持管理の質を上げ、価値を将来にわたり維持するために重要と考えて、特に配慮して計画する▽点検口は意匠的に目立たない位置に新たに計画し、出入りしやすい寸法で、開閉が容易なものとして計画する▽天井裏はキャットウォークを常設で設置する計画とし、床下では点検ルートが分かり易く、距離が長すぎないように点検口数を計画する▽床下は台車に体をあずけての移動がしやすいように、上面がフラットなコンクリート面となるように計画する。
「不同沈下や湿度など現状の問題の根本原因を考察し対策する」。主な内容は▽不同沈下が著しい母屋は、沈下により構造体に大きな力が作用し、放置したままでの耐震補強は困難。工事に先立ち、不同沈下を改善するとともに、将来まで沈下を抑制できる対策を提案する▽台所付近で顕著な多湿に伴う劣化は、排水設備の不具合が主原因の可能性があり、排水設備の更新を提案する▽修景のための水により、敷地には自然でない水みちが生じ、不同沈下や多湿をもたらしている可能性がある。しかし水の修景は無鄰菴にとって必要で、このため沈下は将来も続く可能性がある。このため、べた基礎状のコンクリート構造とし、進行する沈下をコンクリートの盤構造で受け止め、沈下を抑制することを提案する▽べた基礎状のコンクリート盤構造は、地盤からの湿度遮断にも有効なように計画する▽べた基礎状のコンクリート構造は、最も効果的な、べた基礎築造による工法と、より簡易な捨てコンクリートによる工法を比較検討し、最適な案を提案する。
同社の設計業務受託見積金額は2680万円(税抜)。