さまざまな法面対策をワンストップで対応 村林圭太初代会長インタビュー 昨年の度重なる風水害を見るまでもなく、豪雨・台風による災害は激甚化。震度5以上の大規模な地震も2011年以降、毎年発生している。山地が国土の7割以上を占める日本にとって、台風・豪雨、地震に備えた斜面対策や被災後の斜面の復旧は、これまで以上に重要になってくる。そんな中、昨年12月に『法面土木業協会』が設立した。難易度の高い法面工事でも様々な技術提案ができる「専門家集団」を目指し2020年度から本格的に活動する計画だ。協会設立の目的や今後の展開などを初代会長の村林氏に聞いた。
―まず、斜面対策工事の現状を教えてください
「斜面の工事は、急斜面での過酷で危険な作業条件となります。通常の土木工事のような作業が出来ないため、その斜面の特性に合った施工方法や安全対策の計画が必要です。ところが、工事の設計内容を見ると、現場条件が適切に反映されておらず、実態と乖離している事が少なくありません。その結果、安価な予算設定を強いられ、専門業者のダンピング受注を誘発し、施工の安全性や施工品質の低下を招いています」
「これは現場の施工技術に対する認知度の低さが主な理由と考えられますが、その原因は、我々専門業者のアピール不足にあると思っています。発注者や設計者は、様々な業務に幅広く対応する必要がある中で、法面など特定の専門知識を深めるには限界があります。それを補完するマニュアルも存在しないため、各現場の実態に即した施工計画の立案が困難な状況にあると思われます」
―協会設立は、これらの状況の改善が目的ということですね
「はい。そのため法面工事の中でも、特に課題が多い仮設工や法面掘削工などの専門業者で協会を設立する事としました。会員間の情報共有やネットワークの構築で、課題解決の情報提供を可能とし、積極的な情報発信で専門技術の認知度向上も図る考えです」
「建設業界も、働き方改革により業務の効率化が求められます。我々専門業者も従来の言われた通り・指示通り≠フスタンスではなく、高度な技術力を身に着け、元請業者をサポートできる存在となる必要があります。その為、本協会では技術力向上や新技術の研究・開発に協同で取り組む予定です。協会員全体をレベルアップし、多方面からの技術協力依頼や相談にワンストップで対応できる専門家集団を目指します」
―どのような体制で、どんな取り組みを進めていく考えですか
「現在、北海道に本部、四国と九州に拠点を配置しています。その他の地域についても、賛同する専門工事業者を募りながら、4月の本格始動に向けて全国にネットワークを広げる考えです」
「当面はICT技術を駆使した建機による法面掘削『特のり3D工法』
(下記参照)を基幹技術に位置付け、積極的に普及していく方針です。働き方改革につながる作業環境の改善や効率化に大変有効だからです。今後も、作業の効率化を追求し、建機による法面掘削の自動化も視野に入れ、新たな発想の工法の研究・開発に取り組んで行きます」
【むらばやし・けいた】
斜面工事の現場管理の責任者として携わる中、約10年前からICT施工を研究。「ICTは法面工事の作業方法をイノベーションする可能性を秘めている」との思いが高まり2016年に独立。現在、シビルサポート(長崎県大村市)の代表を務める。
建機の法面施工で3DMGを実現 特のり3D工法 特のり3D工法は、3次元マシンガイダンス(3DMG)を法面など斜面の建機施工で実現したNETIS登録技術(登録番号:QS―190004―A)。渇チ藤総建(長崎市)が開発した。
建機本体に搭載した油圧ウインチからのワイヤーロープを、立木など斜面上のアンカーに接続することで、最大傾斜80度まで安全に施工できるバックホウ(特殊法面掘削機)に、360度プリズムや各種センサーを設置。設計図に基づき作成した施工斜面の3次元設計データ≠登録することで、自動追尾トータルステーションから運転席のモニターに、バケットの刃先と設計位置までの差分をリアルタイムで表示する。
表示に従って掘削すれば良いため、熟練オペレーターでなくても複雑な設計形状の法面も丁張なしで高度に掘削管理可能。現場を管理する技術者の負担を軽減する。さらに、丁張の補助作業員が不要など、安全性や施工効率も向上する。
既に九州はじめ、全国で施工実績を有し、2018年の北海道胆振東部地震で大規模な斜面崩壊が発生した厚真町の緊急治山対策でも大きな効果を発揮した。
今後、さらなる作業効率の向上を目指し、GNSS(衛星測位システム)での3DMGを検討中だ。