日本工業経済新聞社(茨城)
2019/05/21
【茨城】伊藤高土木部長インタビュー/完全週休2日工事拡大
昨年11月、県は新たな総合計画を決定。大井川和彦知事のもと「新しい茨城」への挑戦が続いている。ことし4月には伊藤高氏が土木部長に就任。伊藤氏はスピード感を持って災害に強い県土づくりや活力を生むインフラの整備に取り組むとともに、完全週休2日制工事を大幅に拡大すると抱負。今後の展望や地元建設業が抱える担い手確保、入札制度などについて話を聞いた。
―就任の抱負をお願いします
東日本大震災や関東・東北豪雨からの復旧・復興を加速させ、「災害に強い県土」と「活力を生むインフラ」の整備をスピード感を持って進める。
近年は大規模自然災害が多発しており、これに対応するため、国と歩調を合わせて「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」に基づく重要インフラなどの機能維持対策を集中的に実施し、県民の安全安心の確保に取り組んでいきたい。
人口減少・高齢化社会の進行により、今後はますます次世代への技術承継や担い手の確保・育成が大切になる。そのためには官民が連携し、若者や女性が希望を持って就業できるような環境づくりを進め、建設業がより魅力のある産業に成長していくことが重要。意欲ある建設業者の皆さまへの支援や、建設業の健全な発展に資する各種の施策を推進していく。
―特に重点的に取り組みたいことはありますか
まずは職員のレベルアップ。広い視野で考える力を養いたい。業務をルーチンワークとしてではなく、それぞれの業務がなぜ必要なのかを考え、場合によっては取捨選択を行い、適切に業務が執行できるよう見直しを行いたい。
ハード事業としては、偕楽園のさらなる魅力向上に注力する。四阿復元や休憩所設置(建物復元)などで歴史的空間を磨き上げるとともに、カフェやホテルの誘致など民間企業と連携して、本園部から拡張部へ利用者を惹き寄せる工夫をしていく。呈茶やオープンスペースを活用した利用促進イベントの実施も考えている。
ビッグデータ解析を用いた道路の渋滞対策も進めたい。ひたち海浜公園や筑波山、笠間の陶炎祭など観光地では需要が増大しており、さらなる渋滞対策が必要なっている。国や関係機関などとも連携し、課題の解決につなげていく。
―主要事業への取り組みについては
災害に強い県土づくりでは、緊急輸送対策強化事業として、国道245号那珂湊拡幅や国道354号土浦バイパスなど緊急輸送道路の整備や重要港湾の機能強化を推進する。直轄事業の鬼怒川緊急対策プロジェクトも非常に大切。防災・減災対策事業としては道路の落石・のり面対策、堆積土砂撤去、急傾斜地崩壊防止に取り組んでいく。
活力を生むインフラと魅力あるみちづくりとしては、高速道路などの広域交通ネットワークの整備を推進する。2024年度までに4車線化される見通しの圏央道県内区間は、市町村と連携しながら早期の整備を関係機関に働き掛けていく。
東関東自動車道水戸線は昨年2月に鉾田IC〜茨城空港北IC区間が開通し、さらなる産業振興や地域の活性化が期待されている。未開通区間についても、1日も早く供用開始となるよう国に協力していく。
このほか、高速道路ICアクセス道路の整備、通学路の安全対策、道路や橋梁、下水道管渠の長寿命化対策、道路や堤防の除草・修繕、河川の維持浚渫、都市公園の施設修繕などを着実に進める。
―担い手確保・育成に対する考えをお聞かせください
中長期的な担い手確保のため、働き方改革や労働環境の改善、i―Constructionによる生産性向上などに引き続き取り組む。
地域の日常を支える公共施設の整備と維持管理はもちろん、いざ災害が発生した際の対応を行っていくためには、地元建設業の担い手を育成・確保していくことが重要。建設業界と意見交換を進めながら、若年者や女性など担い手確保につながるような就労環境、現場環境の改善を支援していきたい。
―県建設業協会は土曜日を一斉休工日とする取り組みを進めています
県としても、建設業界の取り組みを支えられるよう、週休2日を確保する建設業者を支援していきたいと考えている。
完全週休2日制のモデル工事は16年度に19件、17年度に27件を実施し、18年度は36件を発注した。本年度も大幅に拡大していく。工期が極端に短い工事や緊急的な修繕工事を除くほぼ全ての工事に受注者希望型で発注するとともに、経費補正についても国と同じ基準で適用する。
大切なのは、まずは現場の労働環境を変えていくこと。快適トイレ設置のモデル工事についても17年度に10件を実施し、18年度は20件を発注した。これも大幅拡大していく。働きやすい環境を整えることが生産性の向上にもつながる。週休2日は日給月給制の給与制度の問題もあり、一朝一夕に解決できるものではないが、生産性向上とセットの施策として積極的に推進していく。
―ICT活用工事は増えていくのでしょうか
生産年齢人口の減少に直面し、地域の守り手である地元建設産業を維持していくために生産性の向上は避けて通れない。ICT施工の普及・拡大には、3次元データを中心とする新たな技術を「普段使い」してもらうことが重要になってくる。建設業界とともに果敢に挑戦していきたい。
具体的には、これまで限定された数の工事でモデル的に実施してきたものを、本年度からは大幅に拡大し、ほぼ全ての工事を受注者希望型で発注していく。
―入札契約での新しい取り組みはありますか
14年6月にいわゆる「担い手3法」が改正され、建設業の育成などが発注者の責務とされた。
具体的には、総合評価落札方式の拡充、設計労務単価や諸経費率の見直しによる適切な予定価格の設定、最低制限価格などによるダンピング対策、建設コンサルタント業務での総合評価落札方式の試行などを実施している。
ダンピング対策については、本年3月に中央公契連モデルが見直され、低入札価格調査基準の設定範囲が引き上げとなったことから、県発注工事でも見直しを予定している。
さらに、ゼロ債務負担行為や余裕期間制度を活用した施工時期の平準化にも取り組んでいる。昨年度、ゼロ債務負担行為は約80億円を設定しており、本年度も設定する見通しだ。
今後も建設業界の意見をいただきながら、競争性や公平性を確保しつつ、インフラの品質確保と地元建設業者の育成・確保に配慮した、バランスの取れた入札契約制度の運用を図っていく。
―地元建設業者へのメッセージをお願いします
インフラ施設の日常の維持管理や災害時の活動など、地域の守り手として地元建設業者の果たす役割は極めて重要。宮崎河川国道事務所長時代、口蹄疫、鳥インフルエンザ、新燃岳の噴火とさまざまな問題に直面し、地元建設業者の皆さまにはその度に助けていただいた。
メディアでは自衛隊や警察、消防などの活動が大々的に取り上げられるが、地元建設業者の皆さまは、それらの救助活動に先んじて応急復旧をしていただいている。そうした活動をもっとPRして、建設業の重要性を県民の皆さまに知っていただく必要がある。
また、担い手不足などにより、地域の安全・安心を支える体制の維持が困難になることが懸念されている。担い手の育成・確保は非常に重要な課題。労働環境の改善に向け、建設業界とともに積極的に取り組んでいきたい。
プロフィール
いとう たかし
1968年7月16日生まれの50歳。愛媛県出身。東京大学土木工学科卒。1992年建設省(現国土交通省)入省。国交省道路局国道・防災課道路保全企画室長を経て、2018年4月に県都市局長に就任。19年4月から現職
趣味は旅行。現在は水戸市内に単身赴任中。運動不足を解消するため、朝は高校生に混じって自転車通勤。無類の日本酒好き。