日本工業経済新聞社(茨城)
2019/05/16
【茨城】国総研が一貫したICT活用実現へ/19年度充填研究
国土技術政策総合研究所(つくば市)は2019年度の重点研究開発分野をまとめた。ICTの全面的活用による施工現場の生産性向上に向けて、出来形管理などの基準類の適用工種を拡大し、道路改良や河川改修の大部分の工事で一貫したICT施工活用を実現させる。強靭な国土を支える研究では、液状化被害に対するインフラ施設強靭化へインフラの高精度な液状化リスクマップを作成する。
19年度の重点研究分野は@強靭な国土、安全・安心を支える研究A力強く持続的な経済成長を支える研究B豊かな暮らしの礎となる地域づくりを支える研究。研究で培った技術を現場に還元する。
重点分野の取り組みは次のとおり。
【強靭な国土、安全・安心を支える研究】
◆浸水予測システムの開発・社会実験(担当は下水道研究部、河川研究部)
・対象地域の下水管網などの実態を踏まえた浸水予測計算システムを開発し、XRAIN(最新式レーダー「XバンドMPレーダ」による気象観測網)などの予測・観測データを取り込み、40分〜50分前に浸水予測情報を配信する。
・東京オリンピック・パラリンピックでの配信・活用に向けて社会実験を通じた研究を実施する。
◆相次ぐ集中豪雨による土砂・洪水氾濫被害の軽減(担当は河川研究部、土砂災害研究部)
・土砂流出予測手法の精度向上として、上流から下流にかけて勾配により変化する細粒土砂の挙動を踏まえた土砂流出計算手法を開発する。
・九州北部豪雨時の再現性を検証し、適応を確認する。
・土石流の発生から土砂・洪水被害に至るまでの複雑な過程を再現可能な実験施設を開発する。
◆液状化被害に対するインフラ施設強靭化の推進(担当は企画部、下水道研究部、道路構造物研究部、社会資本マネジメント研究センター)
・3次元モデルによる液状化被害手法の開発として、インフラ施設の周辺地盤の液状化被害の形態などを踏まえた高精度な液状化マップを作成する。
・インフラ施設の液状化リスク評価手法の開発として、道路構造物の液状化などにつながる要因を抽出し、下水道管路の浮上などによるリスク評価を整理する。
◆長期にわたりインフラの機能を発揮へ、効率的・効果的な点検・補修の実現(担当は下水道研究部、道路構造物研究部)
・道路橋の補修・補強設計法に関する調査検討として、できるだけ長持ちさせるための補修・補強方法の留意事項を整理・標準化し、劣化が進んでも破壊に至りにくい構造の工夫を研究する。
・下水道管路を対象とした総合マネジメントとして、都市の実情に応じた点検調査技術の選定手法を開発する。
◆UAV・AIの活用による効率的・効果的な維持管理の実現(担当は沿岸海洋・防災研究部)
・UAVにより高精度な画像・位置情報を取得し、AIによる迅速・的確な施設変状の診断を行うシステムを開発する。
・遠隔地画像伝送技術の開発として、港湾環境下で電波の減衰・遮蔽などの影響を抑え、リアルタイムで円滑な画像伝送を行うシステムを開発する。
◆二段階横断施設の導入により、安全な道路横断を実現(担当は道路交通研究部)
・構内実験により歩行者と自動車の双方の視点から安全に利用できる二段階横断施設の構造や交通島の前後区間の道路形状を検討する。
・交通流シミュレーションにより算出した自動車および歩行者の待ち時間を基に、導入に適した交通条件を検討する。
【力強く持続的な経済成長を支える研究】
◆自動運転の実現へインフラの立場から支援(担当は道路交通研究部、空港研究部)
・次世代協調ITSの実用化に向けた技術開発として、実証実験を行い、道路側から路上障害情報などを提供する仕組みを開発する。
・空港業務支援車両の自動化推進に向けた研究として、空港内の交通流シミュレーションモデルを開発する。
◆クルーズ船のさらなる寄港を目指した受入環境の検討(担当は沿岸海洋・防災研究部、港湾研究部)
・クルーズ船の大型化への対応として、操船性の高い大型クルーズ船に対応した水域施設規模の検討を進める。
・クルーズ船寄港による経済効果分析として、旅客の国籍や寄港港数による消費の違いを考慮し、経済効果を定量的かつ精緻に推計する。
・クルーズ船の視点から見た港の空間形成の留意点を取りまとめ、魅力あるまちづくりに貢献する。
◆ICTの全面的活用による施工現場の生産性向上(担当は社会資本マネジメントセンター、港湾研究部)
・ICTを活用した出来形管理などの基準類の適用工種を拡大し、道路改良や河川改修の大部分の工事で一貫したICT活用を実現させる。
・マルチビーム測深による測量や施工の効率化として、深浅測量マニュアルなどの基準類を改定を提案する。
・CIM導入ガイドライン(港湾編)の素案作成とともに、桟橋に続く港湾施設として防波堤、岸壁(矢板式)のCIMモデルを作図する。
【豊かな暮らしの礎となる地域づくりを支える研究】
◆歴史的建造物の有効活用へ、防火・避難規定の合理化に向けた技術開発(担当は建築研究部、都市研究部)
・在館者避難の安全に関わる基準の合理化へ、倒壊防止機能(耐火構造)を要求しない合理化を図る。
・市街地の火災防止に関する基準合理化として、建物内部での柔軟な木材利用を可能とする、外壁や開口部の防火性能向上による市街地火災防止を検証する。
・木造建築物の基準合理化として、火災時の建築物の倒壊防止を実現するための主要構造部などの評価方法を構築し、仕様条件を整理する。
◆新しい木質材料を活用した混構造建築物の設計・施工技術の開発(担当は建築研究部)
・CLTなどを活用した建築物の構造設計法の検討として、軽微な防耐火被覆で用いることができる中層木質系混構造建築物のプロトタイプ(開発初期段階で動作確認用の試作品)を作成する。実験や解析などによる技術資料を整理する。
・外装材接合部の設計法の検討として、集成材による梁に直接、鋼板製外装材を採用する際の引抜耐力の評価法などを整備する。
◆建築物の省エネルギー化の推進(担当は住宅研究部)
・データ収集の仕組みとして、「省エネ基準適合性判定プログラム」の機能を拡張し、クラウド上にデータを収集する。非住宅の年間1万8000棟のデータを暗号化して保存する。
・データ解析の試行として、約6000棟のデータを入手して省エネ性能の実態を解析する。建築物省エネ法の改正に資する基礎データを提供する。