「施工時期の平準化は、速やかな繰越手続きがあってこそ」。建設業の働き方改革が求められる中、今年も3月末工期に集中した現場のバタバタ感≠ェ目立った。業界からは適正工期の在り方を問う声が依然絶えず、国は地方自治体に対して年度末議会に偏った繰越承認を慣例化しないように警鐘を鳴らし始めた。この状況を打開していくには、財政部局や議会まで含めた理解が必要だ。
(田原謙一・常務取締役(兼)報道部長)
「一部の地方自治体では、慣例により繰越明許費の計上が年度末の議会に限定され、それまでの間、翌年度にわたる工期の設定や変更が行われていない事例が見受けられる」。
2月上旬、国土交通省と総務省が各都道府県や議会にこんな通知を出した。契約締結後の事情変更によって年度内での工事完了が困難と判断した場合、早期の繰越手続きに努めてほしいとの趣旨。建設現場の長時間労働是正や週休2日などの働き方改革を推進する観点から、発注者レベルの意識改革を促している。
そもそも、繰越明許費の承認が3月議会に集中しているのはなぜか。そこには「単年度会計」の原則がある。特に市町村の発注工事は、「工期が長期の案件が少ないため、必要以上の繰り越しは望ましくない」との考え方が根強く、財政当局から繰越総額の削減を求められる自治体も多い。
繰越承認が年度末に偏っている動きは、県の月次統計にも表れている。土木部発注工事の施工件数(2月末時点)をみると、債務負担行為の数は数年前よりも多くなっているものの、繰越工事に関しては早期の伸びが見えない状況だ=グラフ参照=。
■厳しい工期と分かっても…
業界からはこうした声が目立つ。
「同種・同規模の案件でも、発注時期によって工期にバラつきがある」「厳しい工期だと分かっていても、受注した以上はやらざるを得ない…」。
もし、9月議会や12月議会あたりでの繰越承認が増えてくればどうだろう。工程に余裕が生まれ、現場の長時間労働や休日返上による作業も抑えられる。つまり、繰り越しの見通しが早く立っていれば突貫工事の必要がなくなり、自然体≠ナの施工が期待できる。
全国に目を向けると、年度の前半に繰越明許費を議会に提出する事案も出始めている。ある下水道工事では、道路管理者との調整や工法の見直しに時間を要し、契約が2カ月ほど遅れる見通し(7月末→9月末)となったため、6月議会で繰越明許費を設定した例があるという。
国は、早期繰越手続きに値する要件として、計画・設計に関する諸条件や気象・用地の関係、資材の入手難、不調・不落の発生、補助金交付決定時期の遅れ−などを挙げる。「必要と認められるときは、事由発生直後の議会で繰越明許費の議決を行い、翌年度にわたる適正な工期の確保を」と促している。
この慣例≠ニまで称された3月議会での繰越承認を地方自治体はどう受け止めているのか。少なくとも、施工時期の平準化や建設現場の働き方改革を推進する上で見過ごせない問題であることは認識してほしい。