日本工業経済新聞社(茨城)
2018/10/29
【茨城】原子力機構が工事費170億円想定/常陽再稼働安全対策
日本原子力研究開発機構は大洗研究所(大洗町)の高速実験炉「常陽」について、原子炉施設の新規制基準への適合性確認で原子炉設置変更許可申請書の補正書を26日に国の原子力規制委員会へ提出した。補正により、再稼働に必要な安全対策工事は想定していた約54億円から約170億円に増加する見通し。追加した主な工事は主冷却機建物の一部補強工事や地盤補強工事、原子炉建物および原子炉附属建物の大規模損壊対応資機材整備工事など。再稼働の目標時期も2022年度末に1年延期した。原子力機構では今後も規制委員会の審査に真摯に対応していく。
常陽は定期検査中で、原子力機構では新規制基準に適合した再稼働へ、新規制基準への適合性確認のために17年3月30日に原子炉設置変更許可申請書を提出。その後、審査チームから、熱出力と設備の整合性のほか@多量の放射性物質などを放出する事故への対策A自然現象B設計基準対象施設―について補正することを提示された。
補正書では、これらへの対応に加え、先行する試験研究炉の審査状況などを踏まえた最新の知見や再評価を行い、対策を追加した。
具体的には熱出力と設備について、安全性向上や照射試験性能を考慮し、炉新設計を見直した。原子炉の停止系統は主炉停止系と後備炉停止系の独立2系統化とし信頼性を強化。炉新燃料集合体の装荷体数は削減し、新たに設計した100MV炉心で事故時の評価などを実施する。
多量の放射性物質などを放出する事故対策では、炉心損傷防止措置・格納容器破損防止措置の有効性を評価し、放射性物質の放出抑制措置として仮設カバーシート、特殊化学消火剤、仮設放水設備を追加工事とした。
自然現象への対応では、同じ敷地内にある高温工学試験研究炉(HTTR)の審査状況などを踏まえ、設計条件として地震は最大加速度(水平)で973gal、竜巻は風速100m/s、火山は層厚50p、密度1・5g/p3と設定した。
設計基準対象施設については、常陽が基準規則による高出力炉を上回る熱出力を有しており、電源設備や原子炉停止系統などを有する施設としての信頼性・安全性を確保することから、原子炉停止系統の独立2系統化、無停電電源設備やプラント特性により安全性を確保するとした。
これらにより、新たに設計した100MV炉心は、燃料集合体最大装荷体数を前回設計の85体から79体に削減。制御棒も前回の主6本から主4本、後備2本に変更し、独立2系統とした。1次系冷却材流量は1350t/hで設備性能は変更しないが、安全裕度を拡大した。
原子力機構では今後、審査に真摯に対応するとともに、22年度末の再稼働へ安全対策工事などを進めていく。
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申請した工事の概要は次のとおり(別図参照)。
【既申請(17年3月30日)】
◆防護設備設置(竜巻対策)
◆リスクの高いケーブル難燃化・隔離(火災対策)
◆中制外原子炉停止盤設置(中制機能補強)
◆プール溢水拡大防止堰設置(溢水対策)
◆配管支持装置追加・排気筒補強など(耐震補強対策)
【補正追加(18年10月26日)】
◆一部建物補強(火山対策、耐震補強に含む)
◆主冷却機建物の地盤補強(耐震補強対策)
◆大規模損壊対応資機材整備(多量放出事故拡大防止)
◆多量放出事故拡大防止機能耐震性強化(耐震補強対策・多量放出事故拡大防止)=安全容器、コンクリート遮へい体冷却系、補助系
◆後備炉停止系用論理回路設置(多量放出事故拡大防止)
◆停止系統独立2系統化(信頼性強化)