2014年6月に成立した改正品確法、入札契約法、建設業法のいわゆる担い手3法。適正な利潤確保に向けた画期的な施策として施行から4年余りを経た今、建設業界はまた大きな壁に直面している。それは働き方改革と生産性向上への取り組みだ。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、景気の回復基調が続く中、工期厳守や現場力の維持に加え、未曾有の災害への対応、将来的な担い手確保が建設業界の課題として重くのしかかっている。石川県建設業協会の吉光武志会長に業界の進むべき今後の方向性と展望を聞いた。
―建設業界に限らず、少子高齢化による人口減少時代に入った今、担い手確保に向けた働き方改革は待ったなしの状況にある
「生産性向上、働き方改革は何があっても、業界を挙げてクリアしないといけない。地域の安全安心を守ることは業界の使命。このままでは地域に建設業者がいなくなってしまう。少子高齢化が進んでおり、若い人を雇い入れ、教育していくことは大切。難しい時代だが、若い人たちが明るく元気に希望を持ってやれるような業界にしなければならない」
−建設業には古いイメージの3K(きつい、汚い、危険)があるが、これを払しょくし、若い人が入職しなければ未来はない
「できるだけ早く週休2日制を実現することが求められる。給与ベースも思い切って上げていけるようにするなど、若い人や女性が『建設業界の未来は明るい』という機運を醸成する労働環境を整備しなければいけない。これを成し遂げるには我々業界だけでなく、国や県、自治体の理解が欠かせない。改正品確法で発注者責任が明確化され、労務単価の引き上げ、歩切りの根絶などが行われたが、さらに建設業者が適正な利潤を得ていけるよう、バックアックして頂きたい。県内19の市町についても足並みを揃えて品確法の精神に基づき、運用指針を徹底して欲しい」
−日本は災害列島といわれ、大規模地震や豪雨、土石流など未曾有の自然災害が毎年、全国各地で発生している
「もともと日本列島は脆弱だ。国土の約70%が山地で、これだけの気候変動によって地震やゲリラ豪雨が頻繁し、さらに北陸は雪が降る。今冬は特に大変だったが、建設業界が昼夜を問わず懸命に除排雪に努めた。まさに我々の使命といえる。防災、減災は当然だが、予防災というか、災害が起きる前に手当てをすることも必要。思い切って別枠で国債を発行してやるぐらいの気構えを持って欲しい。自民党内で若手議員がグループを立ち上げるなどの動きもある。いつどこでどんな災害が起きるかわからない。そのために事前に、予防的にやることはたくさんある。国土強靭化が叫ばれる今、通常の公共事業予算とは別に考える必要もあるのではないか」
−働き方改革と同様、生産性の向上も重要なテーマ。ICT施工など、建設生産システムの高度化は時代の潮流になっている
「生産性の向上なくして建設業の再生はない。これだけ人材が不足している中、ICT施工を導入すれば、生産性が20〜30%向上できる。重機自体はリースという方法もあり、土木技術者をしっかり教育していけばいい。近年、県内の工業系高校でも土木、建築を志願する学生が半分近くに減っている上、進学や製造業など建設業以外の業種に流れてしまい、地場の建設業に来てくれる人が非常に少ない」
「古い3Kから、給与、休暇、希望の新3Kに移行しないといけない。夏や冬の現場は厳しいというイメージを払しょくし、ICT施工で女性でも重機を操作でき、新3Kをしっかりと打ち出していきたい。建設業を希望が持てる元気な産業に改革し、県民や市民からも認められるよう、努力を重ねていきたい」
−担い手3法は衆参を問わず全会一致で成立した。その意義はそれぞれの地域に建設業者がいなくなっては国民の安全安心が守れないからだ
「自然災害が頻発する今、地域の事情に最も精通しているは建設業者。資機材を持った業者がいないことには災害復旧もできない。除雪もそう。建設業の空白地帯ができては日本列島を隅から隅まで守っていくことはできない。そのためにも全国建設業協会とともに、週休2日制の実現に向けて工期の問題をクリアしながら、段階的に休日を増やす「休日 月1+(ツキイチプラス)」運動を協会員に呼び掛けるなど、働き方改革を進めていかなければならない。国会が全会一致でまとまった背景の意味はそこにある。この大波を乗り越え、県民にしっかりと認知してもらえるようにしていきたい。そうしなければ次の展望は開けない」
よしみつ・たけし 1939年生まれ。明治大法学部卒。63年、吉光組入社し、71年から同社代表取締役社長。2013年から同社代表取締役会長。1992年から石川県建設業協会副会長を務め、2016年、同協会会長に就任。今年5月に再任された。能美市在住。79歳。