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北海道建設新聞社
2018/06/22

【北海道】炭鉱の街から新技術を発信 太陽電池「スフェラー」に注目

 炭鉱のまちを再生可能エネルギーの光が灯す―。スフェラーパワー(本社・京都)の球状太陽電池技術に注目が集まっている。約1―2_の電池の粒は、360度から効率よく太陽光を集められ、ガラス窓や繊維素材にも適応可能。工場がある上砂川町では、町内の防災力向上を狙い、ソーラーLEDライト「スフェラースティック」を2019年度から全戸に配布する方針だ。国内外から注目を集める技術の開発には、上砂川の炭鉱の歴史が深く関わっていた。
 球状太陽電池「スフェラー」は、自然界の不均一な光の当たり方に着目して生まれた。垂直の光を集める平面パネルと違い、時間の経過で変わる照射角度に対応し、反射・拡散する光も効率よく取り込める。条件の悪い環境下でも発電できるため、積算発電量は平板の約2倍に上る。
 スフェラー技術が生まれるきっかけは、上砂川町にある旧無重力実験センターにあった。閉山された炭鉱の縦穴(全長710m)を利用した施設は、当時国内唯一の無重力実験場として多くの宇宙関連実験が行われた。
 1989年に半導体開発の京セミ(本社・京都)が工場を構え、無重力状態で液状化したシリコンを落下させ、球体の結晶をつくる構想を同町で実現。炭鉱に変わる新産業の創出に積極的な町の企業誘致活動が研究を後押しした。確立した技術を引き継ぎ、12年にスフェラーパワーが発足した。
 技術は町内でも親しまれている。スフェラーをガラス素材のスティックに閉じ込めたLEDライトは、16年の台風による大雨災害時に活躍した。
 窓際で充電していたスフェラースティックを持ち、現場の状況確認に向かった奥山光一町長。自らその利便性を体感し、来年迎える町の開基70年周記念事業として全戸に配布する予定だ。「避難に手助けが必要な高齢者の割合が高いため、防災意識の高揚や共助に役立てたい」と話し、新庁舎の窓へのスフェラー導入も検討している。
 「上砂川が生まれ、発展したのは石炭のおかげ。石炭がなくなって20年以上が経った。時代の流れで使われなくなり、環境問題などもある中、それに変わる物が生まれるのは自然の流れ」と感慨をのぞかせ、上砂川産の技術が「どんどん成長してくれたら」と見守っている。
 スフェラーは応用の幅が広い。微少な球体は、ガラス面に埋め込んでも高い透過性を保つため、網戸のように反対側が見える。約5000粒を埋めた15cm四方のガラスパネルを並べたスフェラーパワーのソーラーサインは、景観を邪魔せずに発電できる。
 ビルのガラス壁面や高速道路の防音側壁など透明部材の中に一体化できるよう、現在はモジュール開発を進めている。省エネルギー性能の高い自動車開発などにも応用の可能性が広がる。
 金属製の極細糸と合わせて繊維状にすれば、布状太陽電池も可能。17年には、屋根の部分に縫い付けて防災用テントを開発した。水の中で発電させて電気分解させ、水素を自然発生させる研究なども手掛けている。
 一般的な太陽光パネルの場合、設置するスペース不足や、性能が低下したパネルの廃棄問題も今後予想されるが、スフェラーは粒状のため加工・回収がしやすく、平板よりも再利用向きだ。
 国内外から問い合わせが相次いでいるが、市場は発展途上のため、増産体制の構築時期を見極めている。井本聡一郎社長は「(スフェラーは)10年後には必ず必要になる技術。一緒に技術を育ててくれる事業者と技術を成長させたい」と見据える。