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北陸工業新聞社
2018/01/23

【福井】第4回ふくい建築賞/建築の役割考えるいい機会/審査委員五十嵐啓氏が総評(下)

 優秀賞の「さくらstudio」は、こちらも既存の木造の再生であるが、逆に設計者の想いを存分に詰め込んだ作品との印象をうけた。昨年の住宅部門の最優秀賞作品同様、設計者が施主も兼ねてしまうと「ずるい」感じもするのだが、設計者の自問自答から生まれた、濃密で自由な作品に仕上がっている点を評価した。道路側に増築されたテラスが大きな変化をもたらし、空き家リノベーションとして成功している。公開審査時に「発展途中」ということばをお聞きしたと記憶している。今後も様々な実験やトライがこの建物で続いていくのだろうと考えるとその変化自体も楽しみである。
 同じく優秀賞の「ポケット・デイリーストアー」では、商業施設がもつ公共としての役割について考えさせられた。周辺環境への細かな配慮から生み出された建築形態と商業という生業をどのように折り合いをつけていくのか、「まちの公共空間」として役割をよく認識された施主との出会いが幸運であったと感じた。今後もこの建物を中心として、建築と周辺環境の相乗効果がより高まっていくことを期待できる点を評価した。
 その他、奨励賞の「きんせんクリニック」は、前面道路からの視線の遮断と内部における開放感の演出が印象的であった。しかし、周辺環境への働きかけにやや物足らなさを感じ残念ながら他の作品と差がつく結果となった。
 住宅部門は8作品で昨年度よりさらに1点減となったが、「板倉邸」「えどめしものいえ」「あおいの家」「安島の新屋」「K−house」の5作品が2次審査に進み、最終的に「板倉邸」「えどめしものいえ」「安島の新屋」の3点が選出された。2次審査で現地審査をさせていただいたが、メッセージ性、立地、施主の個性、新規性など、いずれも大変特徴のある作品との印象であった。
 最優秀賞「安島の新屋」は、周辺環境との伸びやかな繋がりの中で力強く建ちあがるフォルムが印象的であった。内部においても吹抜けを持つ居間と各部屋の関係では、内向きと外向きのバランスが拮抗している。古くからの安島集落のデザインソースを現在的デザインに組み込むこと、新旧の建具の採用、外壁材の選定などに数多くの挑戦する姿勢とそれをいい意味で楽しむ施主との関係が評価につながった。
 優秀賞の「板倉邸」はまさにその重厚さから「邸」であり、施主自らが家づくりに深く関わりを持ち、それを専門知識や技で支え導く設計者、施工者の関係が感じられた作品であった。規模的には大きな家ではあったが、細部までこだわりのデザインが施されており、施工者の苦労がしのばれた。
 同じく優秀賞の「えどめしものいえ」では、応募資料にも設計者の環境への真摯な取り組みが目に見える形で表現されており、今後の住宅設計の目指すべき方向を示してくれていた。詳細に検討された結果の開口部の位置や高さなどは、住宅設計だからこそ必要な取り組みではないだろうか。住居プランや周辺環境との関係のつくり方などは、市街地に建つ住宅のひとつのカタチと言える。ここからの今後の変化がまた楽しみである。
 第4回の審査をさせていただく機会を得て、改めて建築の担うべき役割について、また設計者として取り組むべき姿勢について考える時間をいただいたと思う。また、審査に至るまでの細部の行き届いた段取りや準備など、事務局を担当された実行委員会の皆さんには本当にお世話になりました。改めて御礼を申し上げます。

hokuriku