東京都がまとめた特定緊急輸送道路沿道建築物の耐震化状況によると、耐震診断の結果を基に2015年度に改修工事に着手した建物(助成件数ベース)が254件に上り、11年度からの5年間で601件となった。区市町村や建設業団体などと連携して進めてきた耐震化への働き掛けが一定の効果を表した格好だ。一方、建物所有者へのアンケートの結果、費用負担を課題として半数が「耐震改修を実施しない」と回答していることも分かった。都と区市町村では今後、アドバイザーの利用や補強設計、工事などに未着手の約2250棟を対象に戸別訪問を実施し、改修計画案の作成など建物所有者の事業化に向けた取り組みを支援する考えだ。
都内では密集した市街地に多くの建物が立ち並んでいるため、大規模地震の発生時に建物が倒壊し、緊急輸送道路をふさいでしまう危険性がある。そこで都は「緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」を制定。敷地が特定緊急輸送道路に接し、旧耐震基準で建てられた建築物の耐震診断を義務付け、診断費用を助成するとともに、設計や工事などその後の対策につなげるため、アドバイザリー派遣や費用補助といった制度を導入している。
関係する区市町村や建設関係団体などと連携してこれらの取り組みを進めてきた結果、2016年12月末の時点で、対象となる建築物(1万8464棟)のうち耐震診断の実施率は96・1%。耐震性を満たす建築物(1万5269棟)の割合は82・7%となった。
また、助成件数ベースで見ると、15年度の耐震診断件数は前年度比51・8%減の274件、設計に着手したのが41・1%減の182件となった一方、工事に着手した建築物は32・2%増の254件に上った。耐震診断は未実施の建築物が限られているため減少傾向にあるが、工事に着手する物件は11年度以降、着実に増加傾向にある。
また、都は耐震診断の実施後、設計や改修工事に着手していない約2500棟を対象とした戸別訪問を16年度に開始。耐震化率の低い路線では区市の職員の協力も得て、全体で約1070棟を訪れ、アドバイザーの派遣を含めた支援策を説明した。
一方、今年6月末までに実施した建築物所有者へのヒアリング調査の結果、21%が「耐震改修を予定」、18%が「建て替え、除却を予定」と回答したが、53%は「実施しない」と答えた。耐震改修や移転に伴う費用負担が大きいことの他、改修により建物機能が損なわれることや、賃借人や区分所有者との合意形成の難しさが課題として挙がっている。
こうした状況を踏まえ、今後、戸別訪問を実施したものの耐震化への取り組みが未着手の建築物約600棟の所有者に都がアドバイザーを派遣するとともに、16年度に「連絡不通知」などを理由に訪問できなかった建築物約1650棟の所有者を区市町村の職員らが戸別訪問する方針だ。
提供:建通新聞社