東京都の入札契約制度改革の試行を前に小池百合子知事が実施している建設関係団体へのヒアリングで、5月17日に参加した水道工事と下水道工事の5団体の代表がいずれも「見直し」を強く要望した。低価格競争を誘導するかのような制度構築の背景や、業界の意見を反映しないまま試行することに「疑問と不安」を表明し、中小建設業者にとっては「死活問題だ」と指摘。6月からの試行対象は財務局の契約案件に限られ、公営企業部局の対応は検討中であるものの、「今後も自信を持ってインフラ整備に取り組むことができる環境の整備」を求めた。
17日のヒアリングに参加したのは▽東京都水道専業者協会▽協同組合東京都水道請負工事連絡会▽東京都管工事工業協同組合▽三多摩管工事協同組合▽東京都下水道工事専業者協会―の5団体。都の入札契約制度改革の実施方針に対し、全ての団体が「多くの会員から不安や問い合わせ、意見が寄せられている」と、業界内が混乱している状況を説明。改正品確法をはじめとした、いわゆる担い手3法を契機に改善に向かいつつあった中小企業の経営環境が、都の入契制度改革によって再び悪化することに危機感を示した。
予定価格を事後公表に改めることについては、「内訳のない一式工事など積算に必要な情報が十分に公表されていない」と指摘。人員の限られた中小業者には見積期間が短く、予定価格と実行予算の検証が困難になることも課題だとし、見直しを求めた。
1者入札を中止する対応をめぐっては、「都内の施工困難地域や主要幹線道路での工事は、地域住民や事業者との協議に時間と労力を要する」「中小業者は配置できる技術者が限られ、そもそも応札できる案件が限られている」などと、不調や1者入札が多発する要因を説明。入札を中止することよりも、参加しやすい環境を整えることの重要性を訴えた。
共同企業体(JV)の結成義務を廃止することに対しては、「大手企業は単体の方が自由に案件を選べ、利益率も上がる。中小企業とJVを編成する意味がなく、中小企業にとっても大型案件を通じた技術研鑚(けんさん)ができなくなる」と課題を示し、入札参加機会の減少につながることを問題視した。
低入札価格調査制度の適用拡大に関しては、「財務基盤の安定した大手企業との競争、あるいは資金繰り目的などで採算を度外視して受注しようとする事業者との競争に中小企業は勝てない」とし、競争の激化による低価格入札の多発を危惧。災害発生時など有事の際に出動を志す事業者にとって「公正公平な競争とは言えない」と指摘した。
これに対し、小池知事は「公共工事が“安かろう悪かろう”であってはならない。入札契約制度改革により、中小企業の入札参加機会は増える」などと述べ、新たな制度への理解と協力を求めた。ただ、中小企業に及ぼす影響への配慮や、公営企業部局がどのような対応を検討しているのかなどについては明言せず、「大手と中小が同じ土俵で競争するのは無理な話」と指摘する団体側とは議論がかみ合わなかった。
提供:建通新聞社