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西日本建設新聞社
2017/04/13

【熊本】特集「熊本地震から1年」 橋口光徳熊本県建設業協会長インタビュー 『終わりの始まり』危惧

 全てが初めての経験…。熊本県建設業協会は、手探りの中、9カ月ほどで受注環境を整えた。指揮を執る橋口会長は、入札に参加できる地域要件の見直しなど、早期の復旧復興に向け「オール熊本」による受注体制づくりに力を注いだ。県に働きかけて実現した「資金需要の確保に向けた知事から金融機関への要望」は、全国で初めてという。
 ただ、工事が本格化するのはこれから。労働力不足や資機材の不足・高騰も見え隠れし、予断を許さない状況にある。受注環境が悪化したら条件闘争も辞さない強い姿勢を見せるとともに、協会員に対しては災害特需が収束した先を見据えた経営を呼びかける。終わりの始まりとならないように。

――風水害への対応に地元建設業者は万全な体制がありますが、地震災害については初めての経験となりました。

 これだけ大規模な災害は初めて。我々だけでなく行政も住民も地域社会がパニックに陥った。初期の活動報告書をみると、被災が甚大だった地域で初動体制が全く取れず、発災後一週間ほどは殆ど機能していない。経験が無いからどうしていいのかわからなかったのだろう。自身も被災しているし、行政からの指示がこないと我々は動けない。一方で被害が少なかった地域の業者との温度差もあったようだ。
 つまり、最大の教訓は「大規模災害と通常災害の対応を明確に区別する」ことだ。県と共同で構築していた災害情報共有システムは停電で機能しなかった。メカニックに走らずにアナログで考えることも大切。被害が少ない地域業者が被災地にどう入っていくかも今後の課題だろう。初動をどうするか行政とともに議論して、これまでに無い大規模災害時の体制を構築したい。

――国は初めてプッシュ方式で被災地に入りました。

 東日本大震災の教訓があったので、被災自治体の要請を待たず、人も物資も大量に入ってきた。自衛隊だけで2万5000人、国交省のテックフォースも警察も電力会社も全国から。国の初動の対応は早く、さすがだなと思った。
 俵山ルートの復旧で国土交通省は、30億円近い工事を工区分けし、僅か半年ほどで開通させた。緑川と白川の堤防復旧も同様だ。例えばもし、県が俵山復旧を担当していたら、こうはいかない。まず災害査定を受け、必要な予算を国に求め、予算が来てから設計する。今やっと工事に着手した頃だろうから、遅すぎる。県が悪いということではなく、予算執行がそういう制度になっている。大規模災害時は国が乗り込むべきだとつくづく感じた。熊本よりも小規模な県だったら、もっと身動きが取れなかっただろう。東日本の経験が教訓として熊本に生かされた。

――国と県は入札契約制度の運用改善や施工確保対策で様々な施策を講じ、協会は2月、行政との情報連絡会議で5項目を要望されました。

 会社でいえば、協会本部は本社機能と同じ。本部の役目である「受注環境の整備」に注力した。東北で発災から2年かかった復興係数と復興歩掛が9カ月で導入できたのも、国に強く働きかけてきた成果だ。県に対しては、お互いが初めての経験で、どうしたらいいのかわからないところから始まって、話し合いながらゼロから積み上げて今の制度を作り上げた。復興JV制度の導入や総合評価の見直し、地域要件の見直しなど、「オール熊本で参画できる」仕組みづくりだ。
 行政への要望の中で、全国で熊本が初めてと言えるのが「受注事業者の資金需要の確保」だ。「災害復旧工事の発注の本格化に伴い、工事契約がスムーズにできるよう工事契約保証や受注後の資金融資等、金融機関等に対しての支援要請について配慮をお願いしたい」旨の要望書を、蒲島郁夫県知事名で銀行協会と信用金庫協会に発出して頂いた。金融機関は被災者と被災企業に多様な支援メニューを用意しているが、災害復旧工事を担当する建設会社に対してのメニューは何もない。我々は資金・資本が大事で、資金を絞られてショートしたらアウトになる。金融機関と保証会社は最後の砦だから。
 
――それらの施策が功を奏しているのか、一時期に比べ不調・不落が減少し、入札執行がスムーズにいっているようにも思われます。

 全ての施策がきちんと噛み合って初めて効果を発揮するものであって、「全能の神」とは違う。これが100点ではなく、今は分からないが足りない部分が出てきたら、現状に即した改善を求めていく。
 一つは単価の問題だ。後追い行政にならないような対応。上昇する労務費や資機材単価をきちんと反映できる制度にしなければならない。行政は、単価を適宜見直していく姿勢でいる。先に上げられないのは理解できる。課題は、後追いになってしまうタイムラグをどう縮めるかだ。スライド条項や手続きの簡素化も有効だろう。使い勝手のいい制度設計をお願いしたい。これら制度の改正には、官にできるものと政治でしか変えられないものがあり、政治力はやはり必要となる。
 もう一つの喫緊の課題は、交通誘導員の不足だ。全国的な傾向だが、不調不落の一因ともなっている。資格などの制約に縛られて交通誘導員が揃わなければ着工できず、復旧が遅れる可能性がある。ダンプの運転手不足も同様。現状に即した制度に変えないと、建設産業がストップしてしまう。
 また、復旧復興では特に治山工事で赤字が出てしまう場合が多く、不調不落が続くことも予想される。道路や河川など生活基盤に密着した個所から工事を進めているため、治山工事は、これから大量に発注される。現場までの道がなく、猪しかいないような場所。人が足りないのか、業者がいないのか、金額が合わないのか、何らかの原因はある。行政の言い分も理解できるが、何度再入札しても落札者が決まらない場合は、条件闘争する。

――協会員と建設業界にメッセージをお願いします。

 今の災害復旧工事はいわゆる特需であり、これが終わった後が本当の始まりだ。過去に地震を経験した兵庫県やピークが過ぎ収束に向かっている東北では倒産や破産が急激に増えている。浮かれていて特需が終わることを考えていなかったのだろう。終わった後が大変だということを理解して頂きたい。特需がいつまで続くのかよくわからないが、4年ほどすれば、ある程度の目鼻が立ち、その後、収束に向かっていくのではないか。今、損得は別にして仕事量はある。足元を見て、特需が終わった後のことを考え自社の体力に見合った受注をお願いしたい。「終わりの始まり」にならないようにしてほしい。
 また、少子高齢化が進む中、労働者不足は建設産業だけではない。国交省が取り組んでいる「i―Construction」は、4・5年で急激に進むだろう。もちろん現場で働く人の給料を上げて、他産業に負けないようにしないと、建設労働者は完全に枯渇してしまう。
 いずれにしても、今は業界がスクラムを組めるかどうかが問われている。制度など通常時と異なり、不信感を抱くことがあるかも知れないが、考え方を変え、同じ熊本県民として一つになれるかどうかが大事だ。

提供:西日本建設新聞社
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